第7話 七瀬
「残るは……嫉妬、だったか?七つの大罪って」聞いてるこちらもだいぶ疲れて来た。それに、何と言うか、うちの大学、変人が多すぎないか?
「あぁ、最後は嫉妬だ」福呂は言う「誰だと思う?」と。
「知らねーよ。そんなオマエの主観のディスりを当てられるかっつーの」
「最後は
「あー」福呂の挙げた名を聞いて、オレは納得してしまう。七瀬
「それにしても、ド直球で七つの大罪が7を持って来たな。苗字にもう7が入ってるじゃん」オレはからかうように言う。
「いや、名前や苗字はもう、どうしようもないじゃねーか。苗字の7はノーカン、ノーカウントだよ」
「そういうものか?」
「そういうものだ」
「今日の三コマ目の講義は、オレにとって趣味と言うかなんと言うか。モグリで聞いてるというか、自称聴講生的に講義室に紛れこんでるんだけどよ。後ろから美容室のにおいがしてきてさ。後ろを振り返ってみたら、七瀬だよ。パーマ当てたてだったんだろな。化粧も服装もバッチバチにキメてた」
「へぇ」
「なんか、『キャバ嬢?』って思ってしまったよ。うちの大学はオシャレな子も多いけど、アレは違う。大学構内の空気に溶け込む気が無い。めちゃくちゃ浮いてた」
「何しに大学に来てんだかな」
「オレはわざわざ相手をする必要もないと、顔を確認だけして、挨拶するでもなくまた正面に向き直ったのよ。すると背中をつつかれて『ちょっとツラ貸しなさいよ』ってさ。七瀬が、ひそひそ声で、オレに」
「うわぁ。嫌な予感しかしない」
「しょうがないから、トイレにでも行くといった
「あー」七瀬と八木の顔を思い浮かべているオレの口は、意味のある音を発してくれない。
「聞けば、七瀬は今日八木とデートらしい」
「そーかー」
「今日の7時に待ち合わせだそうな」
「もういいよ。もう、おなかいっぱいだよ、7。オレまで7の事がキライになりそうだよ」
「七瀬は別に鈍感で遊ばれている事に気が付いてない訳じゃないらしい」
「そもそも八木は八木で隠そうともしてなさそうだけどな」
「そりゃま、そうか。でも、全てのオンナを蹴散らして、八木を独り占めしたいんだそうな」
「八木との相性、最悪じゃね?」
「だよなー。で、八木に関する事ならなんでもいいからと聞かれたよ」
「部室の事、言ったのか?」
「まさか。八木に義理立てするつもりなんてないけど、アレをそのまま伝えて、燃え上がってしまった七瀬の感情をぶつけられるのなんてまっぴらゴメンだ」
「あぁ。それがいい。言わなくていい」
「そんな七瀬は八木の七人の女の中の一人、七瀬オブセブンガールズ、セブンオブセブンだな、なんて事をオレは思った訳だよ」
「ちょっとなに言ってるかわかんない」
「そんな訳で、七つの大罪が7をもってオレに襲い掛かってきている今日だ。それで、もう、決して熊谷、オマエにだけは遭わないようにしようと、オレはこのアナグラVIPにいたんだ」
「帰れよ。そんなにオレに会うのが怖かったのなら、大学構内なんかに残ってないで家に帰ればいいじゃんよ」
「そうはいかないんだ」
「なぜ?」
「今日は本命の会社からの内定通知が来る日なんだよ」
「だから?」
「家に一人でいるのはイヤじゃん。もし落ちた時には、近くに誰かの息づかいが有って欲しいじゃん」
「はぁ、バカなの?」オレはほとほと呆れて福呂を見る。さっきからスマホをずっと気にしていたのはそういう事か。
「ま、他の奴らは7をオマエに運んで来たようだけど、オレにはないから安心しろ」そう言ってオレは席を立つ。福呂が思わせぶりに振ってきた【7がコンプリート】の謎も解けた。この後は学生課に寄ってから帰るとしよう。「じゃあな。内定出るといいな」そう言ってオレはアナグラVIPを出ようとした。すると、「熊谷!テメエ!」と福呂が殴りかかってきた。
「なんだ、なんだよ、急に」オレはたじたじと福呂に応戦する。
「オマエ!その服はなんだよ!」福呂はオレを指さして言う。
「服って、別に……」そう言いながらオレは洗濯済みの服の中から適当に選んで着てきたグレーのパーカーを見下ろす。そして、ハッと気づく。そう言えばこのパーカーのバックプリントは七福神の絵だ。
「あー、七福神だったか。まるで気が付いてなかったよ。ゴメンゴメン」素直にオレは謝る。
「ゴメンじゃねえよ!ゴメンじゃ!これでもし……」と福呂が言いかけた時に、福呂のスマホがブルブルっと震えた。
福呂はスマホを手に取り凝視する。
「な、内定、出たのか?や、やったな!」おずおずとオレは福呂に聞く。
「お祈りメール、だった……」
福呂はそう言って、膝から崩れ落ちた。
七禍厄厄 ハヤシダノリカズ @norikyo
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