七番のおみくじ
幽八花あかね
🥠
親友と初詣に行っておみくじをひいた。
この一〇〇円の結果に、今年の生き方が左右される――なんて言うと大袈裟ではあるけれど、初詣でひくおみくじに書かれた言葉を一年の指針にするというのが、ここ数年のマイルールだった。
割り箸みたいな棒がいっぱい入った木箱を振って、私は今年の運命の数字と出会う。
――七。
私のおみくじは、七番だった。
かわいい感じの巫女さんが、「七番ですね」と向こうの引き出しからおみくじの紙を取り出す。ラッキーセブンって言葉もあるし、素敵な一年になるといいなぁと私は願う。緊張しながらそれを受け取り、意を決するとバッと開いた。
――大吉。
「わあっ、大吉だ。去年より良い年になるかもしんない……! ミヤビは、何だった?」
クール美人って感じの親友は、私の問いに淡々と答える。
「中吉。書いてある内容も、まあ、可もなく不可もなくって感じかな。ソラは?」
「あっ、私は、まだ内容までは読んでない……。えっとね、恋愛運は良いみたい。〝愛を捧げよ幸せあり〟だって。〝幸せあり〟なら良さげってことやんね?」
「たぶんねぇ。……あ」
「ん? どした?」
ミヤビが見ているほうを私も見やると、そこには同じクラスのカンナちゃんがいた。カンナちゃんはクラスでも目立つ華やかな子で、みんなに明るく話しかけてくれる〝いい子ちゃん〟だ。
私たちは、家から近い高校に進学した、いわゆる地元仲間だった。だからコンビニなんかで会うこともままあるし、一緒に帰ったり遊んだりってのもまあまあする。
「カンナも初詣来てたんだ? ひとり? あ、ご家族と?」
「う〜んとね、ちょっと、うん」
ミヤビの問いに歯切れ悪く誤魔化す、それだけの仕草でも彼女は可愛い。羨ましいなっと思っていると、ドキリと心臓を鳴らせる声がした。
「お待たせ、カンナ。……あれ? ミヤビとソラじゃん。奇遇だな」
「ああ、トウマくん。来てたんだ。あー……カンナと?」
ミヤビが彼に笑顔で応じる。作り笑顔だって、親友の私にはわかる。ミヤビは男子と話すのが、あんまし得意じゃない。
「そ。付き合ってんの、俺ら」
「ちょっとトウマ。勝手に言わないでよっ。べつにいいけどさ」
――パサッ。
指から力が抜けて、私の今年のおみくじは宙を舞ってどこかに消えた。へらへらと笑って誤魔化す私を、ミヤビが気遣うような瞳で見ている。
そんなふうに見ないでほしい。余計に惨めになるじゃん。何が〝愛を捧げよ幸せあり〟だ。何がラッキーセブンだ。
トウマくんへの恋。片想いで終わったじゃんか。ああ、神さまのバッカヤロー……。
***
それからなんかいろいろ話して、私たちはトウマくんとカンナちゃんとはバイバイした。お熱いおふたりさんの初詣おデートを邪魔する趣味はない。そこまで性格悪くないし強くもない。
ミヤビは「ごはんでも行こっか」と私を誘って、まだひとりにさせないでいてくれた。優しいなって身にしみる。ちょっと小洒落たカフェでバカでかいパンケーキをふたりで食べて、私は決壊したようにボロボロ泣いた。
「うんうん、失恋しんどいねぇ」
「ぜんぜん大吉感ない……新年早々ツイてないよ私……」
「でも〝愛を捧げよ幸せあり〟なんでしょ。また誰かのこと好きになればいいじゃん」
「好きになればいいじゃん、って、そんな簡単な話じゃないっしょ」
「じゃ、私にしときー?」
「…………えっ?」
私は泣き顔のまま、クール美人な親友の顔を見る。その頬はクールらしくなく、ほんのりと愛らしく赤らんでいた。
「私のこと好きになれば、両想いにはなれるし。めっちゃ幸せにもしてやるけど?」
「えっ、え、えー……」
私はなんと返せばいいかわからなくって、やたらと〝え〟ばかりを呟いた後、とち狂ったようなことを言いのけた。
「うちの親、サービス業のひとだから、今日も仕事で。夜までいないんだけど。――家でも、愚痴、聞いてくれますか」
「口説いていいなら、喜んで」
ふふふ、と彼女は嬉しそうに笑う。
とくん、と心臓が跳ねた気がしたのは、ふつうに気の迷いかもしれない。
失恋の激情に乗せられて、私は親友を家へと連れ込んだ。
***
七。
大吉。
今年のおみくじ。
今日は――十二月三十一日。
「うん。いい一年だったわ」
「よかったねぇ」
ちなみに明日は――私とミヤビの交際一年記念日。
七番のおみくじ 幽八花あかね @yuyake-akane
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