トモコの話
和響
福袋を詰める
「777ナンテフキツ。アンラッキーセブン、ミッツモナランデルデスヨ」
「アンちゃん、ここはベトナムじゃなくて日本。7は不吉じゃなくて幸運の数字なのよ」
「ソレデモフキツ、ダカラ大渕堂書店シマッチャウ」
「ほらほら、つべこべ言わずに袋詰め作業してね」
文房具コーナーでトモコはベトナム人留学生のアンに指示を出す。大渕堂書店で働き始めて十年。ついに明日、大渕堂書店は閉店してしまう。
閉店が決まった時、トモコは文房具をできるだけ売り捌きたいと『ラッキーセブン福袋』を店長に提案した。文房具をトモコのセンスで寄り分けて、777円でお得に販売する『ラッキーセブン福袋』は閉店セールの目玉商品になっていた。
——それをアンラッキーセブンだなんて。
トモコが大渕堂書店で働き始めたのは二十五歳の時だった。保育士の資格を取り、保育園で働き始めたトモコは人間関係で悩み仕事をやめた。トモコは鬱だった。そんなトモコが再出発できたのは大渕堂のおかげだった。
——保育士の資格があるんですか。ちょうど良かった。週末に絵本コーナーで読み聞かせをしたかったのです。
週末だけ、二日間だけ。それも、お話会の時だけで大丈夫。良かったら、ぜひ。店長にそう言われなんとなく引き受けたお話会。子供達は目を輝かせ、トモコの読むお話を聞いた。それがとても幸せだった。自分の居場所を見つけた気分だった。
それが明日ついに——。
店内を見渡す。トモコが仕入れを担当した文房具コーナー。空っぽになりかけた商品棚を見て、急に寂しさが込み上げた。
「やだよ」
アンに気づかれないように目尻を指で押さえた。この場所が無くなったら、私はどこに行けばいいのだろう。保育士の資格はある。仕事を探すことは簡単だ。でもそう言うことじゃない。ここは私の居場所だったんだ。
最後の福袋を詰め終わった。
明日、地元の人に愛された大渕堂書店は閉店する。
完
トモコの話 和響 @kazuchiai
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