40話。愛する妹と共に家路につく

「ああっ、兄様! やっぱり兄様は、この世で最高の男性です」

「ぶぅううううッ!? ティニー服ぅううう!?」


 わっと涙ぐんだ妹が、僕に抱きついてきた。

 ティニーの服は高濃度の瘴気を撒き散らすドラゴンソンビの踏まれたせいで、腐食して溶け崩れていた。あられもない格好になっている。


 【無限倉庫】から新しい服を取り出そうにも、そのための魔力がすっからかんになっていてできない。

 慌てて上着を脱いで、ティニーに被せてやった。


「兄様、こんなところで服を? はっ、今ここで私と結ばれてくださるのですか?」

「はっ? 何を言っているんだ……」


 潤んだ目で僕を見つめてくるティニーに、僕は首をひねった。


「マイス様、まさかあの真ヴァリトラを滅ぼしてしまうなんて! わたくしはもうダメかとぉおおお……ッ!?」

「おぶ!?」


 さらにルーシーまで、僕を背後から抱きしめてきて、その大きな胸の感触に僕は仰天していまう。


「むっ! ルーシー、逃げたのではなかったのですか?」

「愛するマイス様を置いてひとりで逃げるなど、できませんわ。死ぬ時は、マイス様と一緒です。マイス様のいない世界で、ひとりで生きて行っても仕方ありませんもの」

「……あなたはもう兄様の婚約者ではいのですか、離れてください! 兄様は私だけのモノです」


 二人の少女は僕を取り合ってやいのやいの喧嘩しだした。

 正直、僕はもうヘトヘトなので、付き合いきれない。


「おいっ、ちょっと二人ともやめてくれ……!」

「おおっ、我が息子、マイスよぉおおおッ!」


 突然、大仰に両手を広げて国王陛下がやってきた。なぜか、僕を息子と呼んでいる。

 国王陛下の身体は粉塵の汚れまみれで、どうやら瓦礫の下から救助されたばかりらしい。


「余が間違っておった! あのドラゴンゾンビを滅ぼし、ヴァリトラ様を従えておるとは! ルーシーの婿となって、この国を支えてくれぇ頼むぅうううッ!」

「はぁ?」


 なりふり構わずその場で土下座する国王に、僕はドン引きしてしまった。


「お父様、それは素晴らしい考えです! マイス様、さっそく今日にも入籍を! 城はメチャクチャになってしまいましたが、明日には結婚式を上げましょう!」

「どうやら、この国は滅びの道を歩みたいみたいですね」


 目尻を吊り上げるティニーを、僕は手で制した。


「すみませんが、国王陛下。僕はしばらくティニーと共に、辺境で錬金術の研究に励みたいと思います。今回の戦いで、新しい錬金術の境地に立てましたし……なにより、4年間離れ離れだった妹との時間を取り戻したいと思います」

「ううっ、兄様、やっぱり兄様のパートナーは私しかいないということですね。うれしいです。子供は何人欲しいでしょうか?」

「はぁっ?」


 顔を赤らめてはにかむティニーに、僕は面食らってしまうが……

 あっ、そうか。昔、妹は僕のお嫁さんになりたいと言っていた。童心に帰って、ごっこ遊びがしたいということだろう。


 TPOをわきまえ欲しいと思うけど、ティニーは勝利に浮かれてテンションがおかしくなっているようだ。

 水を差すのも野暮なので、合わせてあげることにした。


「そうだな。ティニーとの子供なら、3人は欲しいかも」

「はい、わかりました兄様! ではさっそく結婚式を!」


 えっ、そこまでやるのか。


「えっ、マイス様、それは……くぅううう、決めました! わたくしも辺境のベオグラードに移住します!」


 ルーシーがムキになったように宣言する。


「移住? 第一王位継承者の王女がいなくなったら、王国は困るんじゃ……」

「構いません。王女の地位などかなぐり捨てて、マイス様と共に生きます!」


 これは困ったな……いくらなんでも冗談だと思うけど。

 ベオグラードはまだまだ復興中で、王女様が長期滞在できるような状態ではない。


「ヴァリトラ様、ありがとうございます! ヴァリトラ様がおられれば、エルファシア王国は永久に安泰だぁ!」


 そこにヴァリトラ教団の者たちが、大挙して押し寄せてきた。


 もうヴァリトラの正体については、彼らに知れ渡ってしまっているらしい。教団の者たちは、ティニーの前にひざまずき、崇拝の眼差しを向けた。


「ヴァリトラ教団、壊滅を命じたハズですが……まあ、良いです。今の私は気分が良いので、兄様を最高神として崇めるなら、存続を許してあげましょう」

「はっ! ありがとうございます! 我らヴァリトラ教団は、マイス様を最高神として崇拝します!」

「なっ、ちょっと……そんなことをされた本気で困るんだけど」

「よろしいです。私は今後、ベオグラードに兄様との愛の巣を築きます。もう王国を守ることはありません。なにしろ、国王は兄様を国家反逆罪で追放したのですから」


 ティニーが厳しい目を国王陛下に向けると、国王陛下は死人のように青ざめた。


「い、いや、お待ち下さいヴァリトラ様。それは……幾重にもお詫びし、撤回いたます故に、どうかこれからも王国を守ってくだされ!?」

「なんと! い、いかに国王陛下でも許しがたいことです。陛下、今すぐに王座を降りて、マイス様とヴァリトラ様に謝罪をぉおおおッ!」

「謝罪をぉおおおッ!」

「なっ、ちょっと待て! 余は王座を降りるつもりないぞ……! もし降りるとしたら、王座はマイス殿に譲る!」


 その後、ヴァリトラ教団と国王陛下は、なにやら押し問答を繰り広げた。


「……これで王国はもう侵略戦争なんかできなくなるし。一件落着といったところかな。帰ろうかティニー。今晩の夕飯は、ティニーが好きなハンバーグにしよう」

「はい兄様!」


 僕は妹と手を繋いで家路についた。

 僕が願ってやまなかったささやかな幸福。ティニーと共に家に帰れる喜びを噛み締めながら。


───────────────────


本作は、これで完結となります。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます!


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追放された錬金術師は無自覚に伝説となる ヤンデレ妹(王国の守護竜)と辺境で幸せに暮らします こはるんるん @yosihamu

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