39話。GODランクの武器を創造して真ヴァリトラを滅ぼす

 ドラゴンゾンビの圧倒的な威容に、生存本能がこの場から逃げろと絶叫していた。

 でも、ここでティニーを置いて逃げたら一生後悔するだろう。

 無能と蔑まれ、実家で居場所の無かった僕に、唯一、家族として接してくれたのがティニーだった。


『兄様の【創世錬金術(ジェネシス・アルケミー)】が外れスキルだなんて、単なる決めつけですよね? 1000回失敗しても1回SSSランクの錬成に成功したたら、歴史的偉業じゃないですか? 私は兄様ならできると思います。だって、兄様はこんなにも錬金術が好きなのですから』


 かつて幼い妹がかけてくれた言葉。ティニーがいたから、僕は自分の可能性を信じることができた。

 この場での逆転の芽は一つだけ……

 究極のアンデッド──ドラゴンゾンビを完全に殺し切るための武器を創造することだ。


 それはSSSランクの武器を超える錬成を成功させるということだ。

……無茶だろうか?

 いや無茶であろうと、不可能ではない。


 たとえ0に限りなく近い成功率だとしても、自分自身の可能性を信じなくてどうするというのだ?

 なにより、これからも僕はティニーとずっと一緒にいたいのだから。


「うぉおおおおおッ、【創世錬金術(ジェネシス・アルケミー)】!」


 神獣ルナの爪を掴んで、錬成を開始する。

 神獣の爪は、膨大な魔力を発し続ける最高の素材だ。これを使って、真ヴァリトラを滅ぼしうる最強の武器をイメージする。


 その瞬間、僕の頭は冷たく冴えた。まるで世界の裏の裏まで見通せるような不思議な感覚。

 最強の武器を想像し、創造する。


「ああっ、その光は……」


 ティニーが感極まったような声を出す。

 神獣の爪は、4年前、ティニーをドラゴンに変えてしまった時と、同じ輝きを発していた。

 

「ご、GODランクのアイテムの創造だと!? それは、我が主が決してたどり着けなかった【創世の境地】……ッ!?」


 真ヴァリトラが耳障りな声を上げたが、錬成に没頭する僕にはよく聞こえなかった。

 過度な集中が、世界からすべての音を消し去っていた。

 

 やがて、神獣の爪は新たなる存在へと生まれ変わる。

 アンデッドを滅ぼすための炎を絶えずまとった剣へと。


「はっ!? バ、バカな、なんだその剣は!? 俺様の【魔力喰らい】で、魔力を食らうことができねぇだと!?」


 アルフレッドが目を剥いて、僕を見た。


「【神殺しの魔剣フェンリル】!」


 創造者として、僕はこの剣を名付けた。

 この剣は神獣フェンリルの爪を素材に使ったことにより、自ら魔力を発し続けていた。つまり、これまでの魔導具の欠点だった魔力切れの心配は一切ない。


「これが今、僕にできる最高の錬成だ!」

「ひゃぁああああ。ヴァリトラ! 兄貴を殺れぇええええ!」


 恐怖にかられたアルフレッドが命令を下す。


「承知したァアアアア!」


 真ヴァリトラの大口より、黒い炎の本流──ドラゴンブレスが放たれた。

 真っ黒に塗りつぶされる視界。迫りくる破滅を拒否すべく、ボクは叫んだ。


「【神狩りの紅焔】!」

 

 【神殺しの魔剣フェンリル】より、紅蓮の炎が噴射される。天の星々まで焼き焦がすような猛火が、真ヴァリトラのブレスと真っ向から激突した。

 これは神獣ルナが使っていた神代の魔法を再現したものだ。僕が見た中でも、ティニーのドラゴンブレスに匹敵する最強の攻撃だ。


「うぅおおおおおおッ!」


 鍔迫り合うふたつの巨大エネルギー。その最中でも僕は錬成を続け、【神殺しの魔剣フェンリル】を改良し続けた。より強く、より効率的に魔力を扱えるように……


 まだだ。僕の理想とする究極の武器は、まだこんなもんじゃない。

 追い詰められた生存本能が極限の集中を生み出し、【神殺しの魔剣フェンリル】はさらなる高みへと到達する。


「バカなぁあああああッ!?」


 やがて均衡が破れ、【神狩りの紅焔】は真ヴァリトラのブレスを押し切った。真ヴァリトラは炎に包まれ、その腐った醜悪な肉体が消滅していく。

 この炎は神性を帯び、不浄なる者に対して効果てきめんだった。


「そんな、そんなぁ。嘘だぁああああッ!? 俺様はパラケルススの災厄の遺産を──最強の力を手に入れたんだぞぉおおお!?」


 真ヴァリトラの近くにいたアルフレッドも【神狩りの紅焔】に巻き込まれ、浄化されていった。


「借り物の力を誇示して無様ですねアルフレッド。どんな絶望に突き落とされてもあきらめかった兄様の勝利です」

「うぉがぁああああッ!? ちくしょうティニー!?」


 ティニーに睨まれたアルフレッドが、断末魔の叫びを上げる。


「アルフレッド……アンデッドと化した者は輪廻の輪を外れ、永遠に地獄をさまようことになる」

「ああっ、お、俺様の身体が崩れる? 嫌だ、死にたくねぇええッ!」

「だけど、神性を帯びたこの剣で滅ぼされた者は、輪廻の中へ還ることができる。そう願い、そう造った。だから、どうか安らかに眠ってくれ」


 わかり合うことのできなかった弟への、僕なりの最後の手向けだ。


「あっ、兄貴……まさか最後の錬成は、そのために?」


 アルフレッドは、憑き物が落ちたような顔で僕を見つめた。


「えっ、あ、あの極限の中で、そんなことをされていたのですか、兄様?」

「……ハハハハッ、そ、そこまでされちまったら、負けを認めざるを得ないな……」


 アルフレッドは透明な微笑を浮かべて、光の中へと消えていった。

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