38話。【side:ティニー】神獣の爪より究極の剣を作り出す

【妹ティニー視点】


「お待ち下さい、兄様。私たちは、どんな時でも一緒ではありませんか?  私も最後まで一緒に戦います」

「いや、ルーシーを人質に取られたら戦えない。ルーシーを安全なところまで逃してくれ!」

「うっ……いくら兄様のお言葉でも……」


 私にとってはルーシーやこんな国より、マイス兄様の方が大切です。


「さきほど私は判断を誤って、危うく兄様を失いかけました。もうそんな過ちを犯すわけには……ッ」


 離れ離れになっている間、兄様に万が一のことがあったらと思うと、気が狂いそうになります。

 かといって、敵は物理攻撃が通用しない怨霊(レイス)。魔法を封じられたこの身が歯がゆいです。

 

「私が守りたいのは、この世で兄様だけ。ティニーは兄様だけの守護竜です」

「……ごめんなさい、マイス様。わたくしは足手まといですね」


 ルーシーは悲しそうに言って、回復薬(ポーション)を自分の頭頂にぶっかけました。彼女の全身がビショビショになります。


「こうすれば、アンデッドはわたくしに触れることはできなくなります。マイス様、わたくしはなんとか自力で脱出しますわ。ティニー、どうかマイス様の力になってあげてください。マイス様が最後に頼みとするとは、やっぱり、あなたですわ」

「よ、良いことを言ってくれるではないですか、ルーシー」


 不覚にも感動してしまいそうになりました。

 兄様との結婚だけは、なにがあっても許しませんけどね……友達として、私と兄様の結婚式に参加する資格は与えてあげます。


「……わかった、ルーシー。よし、行くぞティニー!」

「はい、兄様!」



 その時、ゾッとするような殺気に肌が粟立ちました。


「兄様、危険です!」


 とっさに兄様とルーシーを突き飛ばした瞬間、大質量が私を押し潰しました。あまりの衝撃に一瞬、意識が飛びます。


「よくやったぜぇええ、ヴァリトラ! ヒャッハー! 油断したな。本物のヴァリトラは不死身のドラゴンだぜ。あの程度で、くたばる訳があるかよぉおおおッ!」

「我に消滅の恐怖を与えたお前は許さぬぅ!」


 耳障りな濁声。再生した真ヴァリトラが、その巨木のような足を私に叩きつけて来たのです。


「うぅうううううッ!」


 私は両手で真ヴァリトラの足を押し返して、なんとか圧殺されるのを防ぎました。ですが、筆舌に尽くしがたいパワーに押されて、全身の骨がバラバラになりそうです。


「ティニー!?」

 

 で、ですが、マイス兄様たちは、どうやら無事のようです。

 私は心から安堵しました。


「に、兄様、今のうちに逃げてください!」


 私は死など、恐れません。

 なぜなら、4年前に私の人生は終わっていたハズだからです。


 

「バカ、ティニーを置いて行けるか!?」


 ああっ。あの時と同じ言葉をかけてくださるのですね。

 4年前、黒死病におかされた私は、父様によって山奥に捨てられました。


 絶望に打ちひしがれ、孤独に震えていた私の元にやってきて、手を差し伸べてくれたのが兄様です。

 あの日のぬくもりは、私の永遠の宝物です。


「ヒャッハー! ヴァリトラ、ドラゴンブレスだ。マイスの兄貴を吹き飛ばせぇええええ!」

「承知したァアアアア!」

「やめなさい、アルフレッド……ッ!」


 阻止しようとするも、真ヴァリトラにさらに強く地面に押し込まれ、腕の骨が嫌な音を立てました。

 痛い、痛い、痛い! でも兄様だけは、この命に代えても守り抜かなくては。


「アルフレッド様、あなたはご自分の兄と姉を手に掛けようというのですか!?」


 まだ逃げていなかったルーシーが、金切り声を上げました。


「アヒャヒャヒャ! 俺様のモノにならねぇえてんなら、てめぇも死ねやルーシー! これで俺様は兄貴より優れていると証明するんだぁあああッ!」


 アルフレッドは狂ったように爆笑します。魔物と化した弟には、もう誰の声も届かないようです。


「まだ、試していない手がある。絶対に助けるティニー!」


 兄様は懐から、白い物体を取り出しました。それは神獣ルナの砕け散った爪の欠片でした。


「うぉおおおおおッ、【創世錬金術(ジェネシス・アルケミー)】!」

「ああっ、その光は……」


 4年前のあの日、私を死の淵より救ってくれた神々しい光。

 それが兄様の握る神獣の爪より放たれて、あたり一面を白く染めました。

 兄様は今この場で、神獣の爪より新しい魔導具を錬成したのです。

 

「はっ!? バ、バカな、なんだその剣は!? 俺様のスキル【魔力喰らい】で食らうことができねぇだと!?」


 アルフレッドが怯えたように後退ります。

 兄様の手には黄金にきらめく炎をまとった剣が握られていました。

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