37話。【side:ティニー】妹ティニー、兄への尊敬を新たにする
【妹ティニー視点】
「ヒャッハーッ! 望むところだぜ。来いよ兄貴ぃいいいい!」
アルフレッドが嗜虐的な笑みを浮かべて、兄様を手招きします。
「お待ち下さい、兄様……ッ!」
兄様の持つ攻撃系の魔導具は、幽体に対して有効なダメージを与えられるモノではありません。
慌てて兄様を引き止めようとすると、凄まじい衝撃が頭を襲いました。
ドラゴンゾンビ──真ヴァリトラが、飛び上がって私を殴りつけてきたのです。
「弱ぃなぁあああッ! それでも300万の魔物の総大将かぁああ!?」
アルフレッドによって回復だけでなく、一時的な強化も施されたようです。ですが。
「……邪魔です」
冷たい怒りと共に、私は真ヴァリトラの心臓部分にめがけて灼熱のブレスを発射しました。この至近距離、しかも上空なら他人を巻き添えにする恐れはありません。
地上に太陽が出現したかのような輝きと共に、灼熱の奔流が真ヴァリトラの身体を貫いて、派手に燃え上がらせます。
「私のこの力は兄様からいただいたもの。あなたごときが敵う道理など、あると思っているのですか?」
「ぐぉあああああああッ!?」
真ヴァリトラは、地獄の底から響いてくるようなおぞましい絶叫を上げました。
このような愚か者に構っている暇など、0.1秒だってありません。
私はすぐさま兄様の救援に向かおうと……
「これが俺様の奥の手だぁああ! スキル【魔力喰らい】!」
アルフレッドの馬鹿笑いが聞こえたと同時に、身体から一気に力が抜けていきました。
意思に反して、手足が細く縮んでいき、あっという間に、私は人間の少女の姿になってしまいました。
えっ、これは……驚きと共に私は地面に墜落します。
「アヒャヒャヒャ! 生まれ変わった俺様は、最強のスキルを手に入れたんだぁ! 周囲の魔力を喰らって力にし、魔法を消滅させるスキルだぁあああッ!」
見れば兄様の魔槍が、魔力を失って転がっています。
魔導具の唯一の弱点である『魔力が切れ』が起こってしまったのです。
焦燥が私の胸を焼きます。これは、最悪の事態です。
「ざまぁねえなぁあああ、ティニーの姉貴ぃいいいい! 人間に戻れるようになったのが災いしたな。ドラゴンの姿を維持するには、莫大な魔力を必要とするんだろう? わざわざ無敵のドラゴンを弱体化させちまうなんて、兄貴はホントにバカだなぁああああッ!」
「兄様をバカにするなんて……どうやら、もう一度死にたいようですね。アルフレッド」
私は歯軋りしてアルフレッドを睨み付けました。
「はひゃ。人間の姿に戻った上に、魔法も封じられたお前に何ができるってんだよ、ええっ!? それよりも俺様はなぁあああッ。ずっとうらやましかったんだよ。マイスの兄貴はスキルを持って生まれたのに、どうして俺様は何にもねぇんだ? 子供の頃は、父上は兄貴ばかりかわいがってよぉオオオ!」
「きゃぁあああ!?」
アルフレッドが吠えると、その身から瘴気の渦が噴出しました。近くにいるルーシーが、悲痛な声を上げます。瘴気は人の身を蝕むのです。
「やめろ、アルフレッドぉおおおお!」
「えっ、無茶です。兄様!」
マイス兄様が雄叫びと共に、アルフレッドに突撃していきました。
あまりのことに私は仰天します。魔導具を封じられた状態で、勝ち目などありません。
「ヒャッハー、玉砕覚悟かよぉおおお! いいぜぇえ! ぶっ殺してやらぁあああッ!」
私は慌てて手を翳して、ありったけの魔法をアルフレッドに撃ち込もうとしましたが、不発に終わります。
焦ったが故の致命的な判断ミスです。
自分の不甲斐なさに怒りを覚え、それがさらなる焦慮を生み、手を伸ばすも、もう間に合わない……!
次の瞬間、私は信じられない光景を目にしました。
「ぎゃぁああああッ!? 痛てぇえええ!?」
なんと幽体である筈のアルフレッドが、苦しみ悶えているではありませんか?
兄様は、究極の霊薬【エリクサー】をアルフレッドに浴びせかけたのです。
私は混乱のあまり失念していました。
負の生命体であるアンデッドにとって回復薬は猛毒であり、触れればダメージを受けるのです。
ならば究極の霊薬【エリクサー】を浴びせれば、物理攻撃の一切通用しない怨霊(レイス)であろうとも、倒せるハズ。
「さすがは、マイス兄様です!」
まさか、これだけ不利な状況に追い詰められたというのに、こんな起死回生の一手を考えつくなんて。
私は強烈な尊敬の念を抱きました。
そうでした。マイス兄様の真の強さは、どんな困難や絶望的な状況でも諦めずに最善を尽くすことです。
そんな兄様だからこそ、外れスキルと言われた【創世錬金術(ジェネシス・アルケミー)】の真価を引き出せたのではありませんか?
「大丈夫か、ルーシー!?」
「はい、マイス様!」
兄様はルーシーの手を引いて、抱擁をかわします。
兄様と抱き合うなんて、う、うらやましいです。
「ちくしょうぉおおおッ! やりやがったなぁ! 無能の分際で、無能の分際でぇええ! ぶっ殺してやるぅううう!」
のたうち回るアルフレッドが殺意に満ちた目を兄様に向けます。
「兄様を殺す? そんなことはこの私が許しません」
私は一足飛びで、愛しい兄様の近くに移動しました。
たとえ魔法が使えなくても、この身を盾にして、兄様をお守りすることはできます。
「ティニー、ルーシーを連れて逃げてくれ! 僕はアルフレッドと決着をつける!」
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