【KAC20236】―②『アンラッキー7のループ』
小田舵木
『アンラッキー7のループ』
7度目の人生は
繰り返される
どうしてこんな人生を歩んだのだろう?
◆
私は人生を繰り返す病に
あらゆる
私を軸にした世界は無限に分かれていく。
その一本一本を生きねば―この輪廻は終わらないらしい。
そう誰かが言ったのだ。「全ての可能性を試す」と。
響き合う現実は絡まりあい。7度目の人生に絡みついて。
ああ。私は―17歳のあの夏の日に幼馴染に殺される。
そうして。そこを起点にした無限ループが現れた。
私はそれを記念してこう呼ぶことにした。
『アンラッキー7のループ』と。
◆
試行
もう見たことのある情景が私の前に広がって。
「セミの声が
今日は―ああ、殺されるんだっけ。
幼馴染だった。生まれたその日から一緒で。
お互い理解しあってると思いこんでいた。
それが誤解であると知ったのは7周目の人生で。
あの日。アイツは―
誕生日の私の家に上がり込み…犯そうとし。それが叶わないと知ると、首を締めて殺したんだ。私を。
犯される屈辱と生物の本能としての快感と、生存本能が何故?と叫ぶ声の中、私は亡くなり…あれから幾度か人生を送ったが。その
繰り返される不幸は。私をいつしか
抵抗をするのを止めて。
ただ、ありのままにループを受けとめ。
幾度も犯され、殺され。
その度にリセットされ、同じ日常に戻される。
繰り返す魂はいつしか
このまま消えてしまえば良い、そう思わない日はなく。
それでもなお。執拗に繰り返される日常は、オートリピートがかかり続ける音楽プレイヤーのようで。
「最悪だ」と言いながらベットから身を起こし。
ドレッサーに顔を向ければ。心なしか青白い顔があり。
「見
「こんなの犯して何になるのよ?七郎?」鏡の中の自分に問い。
「―そんなの知る訳ないじゃない」自分自身で
◆
「おはよう、七郎」私はルーティンをこなし。
「うっす、
私はこの先の会話が何であるかを覚え過ぎているから―スキップを試み。
机に突っ伏して世界を暗くし。
「おーい?菜々?」七郎は
「…あの日なのよ」嘘をつき。
「…
去っていく七郎。その背中をこっそりと見る。
何処に―あんな狂気を隠してる?それが私には分からない。
…今回も黙って殺されようかな。そう思わないでもないが。
この繰り返されるゲームをシカトするのも暇なのだ―
◆
「今日、お前誕生日だったろ?」
「…そうね」私は解答する。
「おばさんとおじさん、今日は居ないんだろ?」おっと忘れてた。今回のセッティングはこうか。
「七郎、アンタが祝いに来るわけ?」と
「独りの誕生日は辛いだろ?」笑う彼が
「…下心が透けて見えるから嫌」私はこう言ってみて。
「…」顔を赤らめる七郎。この顔からは彼の狂気は分からないが。そもそも狂ってしまってる人間は常人たる私には理解不能で。
「流石にハイティーンが二人っきりってのは感心しない」私は次の釘を打ち。
「別にお前が…好きな訳じゃねえし」彼はそういうが。歪んだ愛情を私は幾度も受けており。
「隠さなくても良いわよ」投げやりに私は言い。
「ならさあ…」と彼は鼻息を荒くして来。
「来ないで。独りで居たいから」かくして舞台は整い。
◆
決められた台本に沿って。
用意された
私は―殺される。と思いながら自宅のリビングのソファに寝転ぶ。
時も、誰かが気を使ったかのように午後7時だったはず。
壁に下がる時計を見れば7時の7分前で、点けっぱなしのテレビはニュースを流し。
「首締められるのは嫌だよなあ」と独り
「
「鍵は掛けといたんだけどね」どうせ、私の親から借りたのだろう。
「…菜々、俺は前から―」彼が言い切る前に「私を犯して殺したい」と被せ。
「分かってくれるのかあ?」彼は
「分からざるを得ない」こう
「お前が中学生になった辺りからなあ…」「体に目が行き」
「むしゃぶりつきたくて
「ああ。だから―」「黙って殺されてくれ」ああ。
「なんだよお?受け入れてくれるじゃないか?」彼は
「幾度
「俺は何度もお前を犯したくない」彼の美学。
「死にゆくモノを犯したい」私はそれを何度
「そう。息が絶えるその瞬間。俺は射精したい」息を荒らげながら言う七郎。
「なんて言うんだっけ?そういう欲求…」ああ。喉に引っかかる魚の小骨みたい。
「何でもいいだろ?」彼は迫って来。
「…そうかもね」私は受け。そして首を締められ、服を剥ぎ取られ―
息絶えるのだった。
◆
8の字に
7の字に永劫を見るものは私くらいのものだろう。
しかし。人生が繰り返される事に気付いたその時が7周目であり。
そこにループが発生した。まるで狙ったかのように。
私という観測者があるから―ループが現れたのか?こう思った事は何度もあり。
責任者がいるのなら問いたいところだが、かの「全ての可能性を試す」と言った者はループを起動させてから現れない。
かの者は何がしたいのか?
まるでシュミレーションを何度も行う軍事演習のようにも思える。
しかし。私の人生を繰り返して何になるのか?
宗教的な地獄に落ちている、と言われた方がしっくりくるのだが。なにせ
しかし。堕ちる先は常に私の人生のバリエーションであり。
これは
そうなると―無限に近い試行回数を繰り返さなくてはならない。
ああ。何度、七郎に犯されれば、殺されれば良いのか?
いい加減
もし、この人生のプレーヤーがあるのなら。誰かリピートボタンを押してほしい。
そして。このループを止めてよ。
◆
あれからもう一度、17年、約6200日が過ぎ。
「またか」と私は
7月7日。七夕。
何度こなしても。救いはなく。もう何度目の試行、何本目の分岐かも分からず。
まるで私の名字みたいだな、と思わない事もない。
きっとそうに違いない、と思いながら体を起こし。
ドレッサーの鏡を見れば青白い私の顔があり。
そこには絶望すらない。リセットを繰り返した私は単純に飽きが来ており。
それに慣れてしまう自分が死ぬほど嫌で。
死ぬほど嫌?何を冗談言ってるんだか…本当に死ぬのにさ。
…初期の頃は悲劇を回避しようともした。
幾度かは成功した。だが。私の死はある種の決定事項であるらしく。
7日以内に別のシチュエーションで死ぬようになっているのだ。
その穴を塞ぐ作業を―
…やっぱりファンデーションのノリが悪いな。今日…
◆
「菜々」七郎はそう言うが。
「…」
「元気ないお前は―見ちゃおれん」私をくすぐろうとする七郎。
「止めてよ…セクハラ」身を
「良いからその顔止めてくれよ…」その
「アンタのその顔が不快なの」嫌味を垂れてみて。
「お前が元気ないと…張り合いがない」彼は受け流す。
「張り合いねえ?」犯しがいでは?と言いたくなるクチを封じ。
「俺はお前と育ってきたからさ、お前が元気ないと、俺もそわそわする」その素直さは簡単に狂気に反転することが出来る。
「余計なお世話」
「なんだよ、歯の浮くような
「似合わないわよ?」誤魔化し。
「
「ええ。野暮ったい顔がギャグに思えてくる」
「酷くね?」
「酷くない…」どうせ。コイツはどうやったって私を犯しに、殺しに来るのだから。
「…保健室行くか?」心配そうにみる、その様に作為はあるのか?
「サボるほどでもない」どう過ごそうが、運命のその時は来る。
「ん。まあ良いけど…」去りゆく七郎。
◆
リピートされる毎日。飽きが来るシーンの繰り返し。
今日もまた私はなんとなくで日々をやり過ごしてしまい。
ソファの上で運命を待つ。
七時。今回も親は居ない。近いループでシチュエーションが被るのは珍しくないが。
あと7分の命。そう、彼は狙ったみたいにこの時刻を繰り返し。
かちゃん。鍵が周り。運命という
彼のいきり立った足音が家に響き渡り。
「よお」と私が言えば。
「よお」と彼が返す。
「今日もお疲れ」
「ああ…ああ…」言葉にならぬ返事がその先を暗示し。
「私を犯して気持ちいい?」投げやりな台詞をぶつけ。
「分かんねえんだ」彼は同じ台詞を繰り返す。
「大した体してないと思うんだけど」グラマラスではない。
「…お前の体であることが肝要なのさ」彼は言う。
「そこまで私に執着されてもね」
「その白い体…菜々の体だけに…こんな意味の分からん
「抜いてきなさいよ」それでやり過ごせないの?
「もう…やったよ…でも満足出来ない」
「貴方は、貴方の欲だけに突き動かされるのね?」聞いても
「お前だって…
「アンタは命を奪いたい…流石に抵抗したくなると思わない?」
「それが俺をそそり立たせる」彼は股間の辺をもぞもぞさせ。
「何したって欲情してくれそうね?」情報は今回も引き出せない?
「俺はお前の全てが欲しいんだよ」
「命を…含めてね」
「そうだ。命にぶっかけたい」
「とんだ変態」
「ああ。だから、いただく―」
以下省略。
いちいち見る必要さえない。
さっさと戻るだけだ
◆
約536112000秒後。しっかり私は戻ってき。
部屋のカーテンから差す日が、私という運命の輪の中の独り子を照らしだし。
ああ。さっさと首でも吊ってしまおうか。
これも幾度も試したことなんだけど。しっかり戻ってくるのだ17年後に。
この執拗なシミュレーション。そのシュミュレーターのオペレーターは何処で何をしているのか。
もし見つけたら、タダじゃおかない。徹底的にしばきまわす。
ドレッサー。三面鏡は私を3つの方向から映し出し。
そこには3人の私の鏡像があるが。皆一様な顔、青白い顔をして『私』を見つめており。彼女たちは
「私だって努力しなかった訳じゃない」言い訳をすれど。
「ただ
「無駄は省け」
「…運命から目を
「逸らしたくも―なる」基礎を作りながら私は言い。
「もがいて
「もがいて、手から
「まだ、もがきようはある」かく言えど。
「幾度
「まだ―たったの数億回でしょう?」
「人は
「慣れちゃだめ」
「どうしろってのよ…」
◆
人は日常に
繰り返される刺激に慣れ、反応は単純な方向に
なんとなくで過ごす日常と非日常。
そこに奇跡はなく。ただ
昼の
顔を太陽にむければ。くしゃみが
「夏風邪か」後ろから七郎の声。
「タダの反射」そっけなく返し。
「腹だして寝るから」
「アンタじゃないんだから」
「ところで」ああ。今回もそう来るよなあ。
「調子悪い」意味のない逃げを試み。
「嘘こけ」
「嘘なのよねえ」
「せっかくの誕生日だ…祝ってやるからさ」
「別に祝わなくても良いのよ?ただ17歳になるだけで。何ら特別な日じゃない」
「それでも人生一回きりのイベントだろ?」
「17歳になる、という意味においては。歳を取るという観点なら365日後にまた迎える」
「お前は17にしちゃドライじゃないか?」不思議そうに
「ドライにもなるわよ。女にとって歳を取るというのは
「…さっぱり分からん」
「単純に歳を取れば取るほど妊娠確率は下がる。そして出産へのリスクが高まる…現代医療は進歩した。だけど
「性に駆動させられる人生ね…皮肉だ」どの口が言ってるんだ?
「増殖と進化を駆動させる遺伝子に
「運命みたいだな」
「そうね。性を持った―これは運命であり宿命である」
「抗えない、な」
◆
七郎、彼は何かに支配されているのか?欲求に支配されているのは確実だが。
まるで何かに駆動させられるかのように、彼は私を犯し、殺す
それが単純な性欲に
誰かに仕組まれたかのように、彼は同じ可能性を
そこに意図があるのなら。その意図を食い止める事も出来るのか?
そういえば、私は。
彼と対話するのを久しく止めている。
一応は喋りはすれど、それは現実という
私の感情を乗せたモノではない。だって…犯し、殺そうとしてくる相手に冷静に話せると思う?17の私には不可能、そう思い込んではいたけれど。
やるべきか?そう一瞬迷う私がまどろっこしい。
どうせ、死に、戻るなれば。やるしかないのだ。
◆
慣れ果てた7時のソファ。
まるで空間にあるもの全てが決まった座標にあるかのような既視感。
繰り返される実験。第何次かはもう忘れ。
私はここに新たなパラメーターを足す。
対話。
それはおざなりの一幕を演じるのではなく。本気で向かいあって確かめる。
彼は何に駆動させられ、踊り続けているのか?
「来たわね」物音に声をかけ。
「来たぜ」彼は部屋に出現し。
「ねえ」私は語りかけ。
「…どうかしたかよ」
「貴方は何に突き動かされているの?」かく問うて。
「…正直分からん」彼は
「『本当に』私を犯したい?」
「表面上はそう思える」
「表面上は?」
「…体の底から
「だが?」この先は知らない。そこに可能性はあるのだろうか?
「そこに俺の意思が見えてこない」彼は告白し。
「貴方は私を犯したいんじゃないの?」
「…表面上はそう思ってるんだろうさ」彼は股間の辺をもぞもぞさせつつ言い。
「だけど突っ込んでいくと、分からなくなる?」
「そう、菜々。お前は
「一応、ねえ?」
「犯して殺したいって思っちまってるんだ。『一応』って言葉はつくさ」
「七郎なりの遠慮」
「そこまで無くす
「では。
「繰り返す?…繰り返しているのか?俺は」
「少なくとも私の観測においては」
「創作にありがちなループ世界」彼はシニックにそう言い。
「そうとも言えるし、
「重なり合う現実。無限に分岐する可能性…」
「そう。私はもう
「その度に俺に犯し殺されている…済まない」
「良いのよ。幼馴染じゃない?」なんて本当はそうも思えてなかったんだけど。
「俺達は閉じ込められている?」彼はそそり立った股間を
「かもね。意地の悪いオペレーターがシュミュレーターを回してる」
「…相当性格悪そうだな」
「私は―良い加減、そいつを見つけ出して、声がでなくなるくらいにはしばき倒したい」
「…ここで俺がお前を殺さなかったら?」
「今までは。繰り返しは止まなかった」「でも」「貴方を説得した上で―は初めての可能性かも」
「…俺が抗えば言い訳か?」前かがみになりながら彼は言い。
「今回はそうして貰って良い?」私は言う。
「コイツをどうしろと?」
「我慢なさい」非情かもしれないが。そういう事をしてあげたい気分ではない。
「…お前の頼みなら―仕方ない」
「助かる」
◆
7月8日を迎える。
ベッドの隣には七郎。
そう。私は説得し、和姦に持ち込んだ。
荒ぶる彼に
素直な彼は丸めこまれ。
2つの輪は繋がり。永遠とも無限大とも取れる形になり。
「じゃなきゃ―あんなプレイに耐えた意味がない」詳細は言いたくない。
「…済まん」と隣の彼は言い。
「結構キツかった事だけは言っておく」
「もうあんな事はしないよ」
「…繰り返してきたアンタが言う?」
「それは…済まん」彼はそう言う。
「じゃあ。私が死ぬかも知れない一週間は付きっきりで居て」こんな事は言いたくない。だが、それで彼を封じておきたい気持ちもあり。
「…任されよう」
◆
今日は7月15日。
一週間はあっという間に過ぎていき。
その間、私は久しぶりに七郎との穏やかな日々を過ごした。
空いてる時間は常に一緒に居るようにした。そこに愛はあったのか?どうだろう?
ただ。お互いをよく知っているようで―知らなかった私達は、幾億の可能性の中で生じた
それが未来に繋がるような気がして。
「…お前生き延びたな?」七郎はそう言い。
「…久しぶりに17歳の7月15日を迎えた気がする…けど、もしかしたら初めてなのかも?ああ。分かんなくなってきた」そう、もう私は観測する者ではなくった気がするのだ。
「気にするの止めたら?」
「気軽に言ってくれる」
「だってさ。そもそも繰り返してるという認識自体が怪しい…というか検証不可能だ」
「一時の夢…だったとでも?」
「そう思えば、忘れられね?」屈託なく笑うな、ボケ。
「…アンタの所行は忘れない」
◆
あれから何年も経ち。
私はシュミュレーターのコンソールの前に座り。
自分の世界の絡まりを眺め。
「やんなきゃいけない訳?」隣に立つ彼に問えば。
「やんなきゃ俺達は結婚しない」簡潔な
「でも―ループに向かって収束されば、
「これもまた運命さ」と彼は
「はいはい…」
「全ての可能性を試す」
こうしてアンラッキー7のループは起動する。
私の居る未来に向かって。
◆
【KAC20236】―②『アンラッキー7のループ』 小田舵木 @odakajiki
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