不運な迷宮

永庵呂季

不運な迷宮

 どうして自分は英雄になることを望んだのだろう?


 英雄なんてなるもんじゃない。


 戦いには勝って当たり前。秘宝は見つけて当たり前。世界を救うのだって、当たり前。


 誰もがそんな風に思っている。

 みんなが口を揃えて言う。


「だって、貴方は英雄でしょ?」


 ということで神に見捨てられた神殿。


 今ここ。

 

 噂では、幸運に見放された場所。訪れる者に不幸の数字を刻む場所だという。


 神のいない神殿は荒廃し、魔物が住みつき、神殿の地下に巨大な迷宮を築いた。


 神の幸運を期待できないその迷宮で、私は――


 三百回、敷石につまづき、


 二百回、蜘蛛の巣を顔面で受け止め、


 百回、行き止まりに突き当たり、


 五十回、落とし穴に落ちかけて、


 五十回、じっさいに落ちて、


 三十回、敵の毒攻撃を受けて、


 二十回、敵の麻痺攻撃を受けて、


 十回、ワープ・トラップで振り出しに戻され、


 五回、宝箱の罠に引っかかり、


 五回、宝箱と思ったらミミックで、狩られそうになり、


 三回、死にそうなほどピンチになり、


 二回、じっさい死んで『不死鳥の爪』で生き返り、


 一回、神殿の主となっていた邪竜を退治した。


 刻まれる不幸の数字が気にかかるところだが、とりあえずまだ生きている。


 そして、何はともあれ、神殿の主である邪竜は倒した。邪竜が持っていた『七つの宝石』はすぐに見つけることができた。

 神代かみよの時代に手掛けられたと語り継がれている究極の芸術の品。


 私はその七つの宝石たちを眺めて、思わず疲れた笑いが出た。


「はは……アンラッキー7。とてもじゃないけど縁起がいい気がしないわね」


 これを持って帰れば、また国を挙げての大歓待が待っていることだろう。


 そして、その後には必ずこう言われるんだ。


 ……じつはですね、折り入ってお願いしたいことが……。


 まだ不運の最後の一回が残っていたことを思い出す。


 それはたぶん、英雄になったことね。


 これで777。


 なるほど。

 不吉な数字が刻まれたわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不運な迷宮 永庵呂季 @eian_roki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ