人生、結局プラマイゼロ
伊崎夢玖
第1話
「おめでとうございます!!」
時間潰しで訪れたパチンコ屋のスロットでまさかの『
今までこの手の遊戯で勝った試しはない。
というより、センスがないと思っていた。
しかし、それは今まで運がなかっただけの話であることをたった今証明した。
ジャラジャラとコインが台から吐き出されてくる。
それらをドル箱に詰めつつ、今まで負け続けた分を取り返すべく、その後も時間の許す限り打ち続けた。
結局閉店まで滞在し、約七七○○○円の勝ち。
今日はやけに『七』がついて回る。
これが俗に言うラッキーセブンってやつなのかもしれない。
札束でパンパンに膨れた財布を右尻ポケットに入れ、街灯でわずかに明るくなった道を自宅方面に向かって歩いていると前方で若い女がキョロキョロと周りを見渡していた。
察するに、道に迷っているようだった。
いつもなら無視一択。
こういうことに自ら首を突っ込んで迷惑を被るなんて愚かなことはしない。
だか、今日は勝ちまくって気分がいい。
気まぐれに女に声を掛けた。
「お困りですか?」
「道に迷ってしまって…」
思った通りだった。
「行きたかった場所の住所は分かりますか?」
「ここなんですけど…」
「これなら、近所なんで案内しますよ」
「いえ。ご迷惑になりますので…」
「困った時はお互い様って言いますから」
「…ありがとうございます。よろしくお願いします」
並んで歩くも、無言が続く。
(何か話さなきゃ…!)と思い浮かんだのは、どうでもいい世間話。
ダラダラと話してると急に女が口を開いた。
「きゃーーーー!!!助けてぇーーーー!!!」
ポカンとしてると俺よりもずっと体格のいい男たち数人に取り囲まれてしまった。
正直怖い。
(やっぱり声なんか掛けるんじゃなかった…)
今更後悔しても、もう遅い。
後悔先に絶たず。
一目散に逃げようとするが、一歩遅かった。
男たちの一人に後ろ首を捉まれ、引きずり倒される。
そのまま殴る蹴るの暴力の嵐が始まった。
終わりの見えない恐怖に、身を丸めて耐えるしかなかった。
「もういいんじゃない?」
暴力が始まってどれだけ時間が経ったのか分からない。
数分なのかもしれないし、ウン十分なのかもしれない。
ただ俺にはウン時間のように感じた地獄だった。
動かない俺を余所目に、右尻のポケットに入っていた財布から中身を丸ごと引き抜かれ、ヤツらは退散した。
ただ呼吸するだけでも痛くてつらい。
自棄になって、痛い体をゴロンと仰向けにすると、星たちが瞬いていた。
何も知らない星たち。
じわりと涙が溢れてきた。
(どうしてこんな惨めな気持ちになっているんだろう?)
(やっぱ、あの当たりで運が尽いたんだな…。じゃなきゃ今こうしてないはずだし…)
(こんなのラッキーセブンじゃなくて、アンラッキーセブンでしかない…)
動こうとしない俺を他所に、頭上には北斗七星が静かに俺を見ていた。
人生、結局プラマイゼロ 伊崎夢玖 @mkmk_69
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