七発目の魔弾

「容疑者が出て来た!」

「武器を捨てて投降しろ!!」


 たくさんの警官が、俺を逃がすまいと半円状に出口を封鎖していた。


 マンションの死体?さっきの銃声?何が原因でバレたんだ??上司を殺した時の銃声ですでに出動する準備が整っていたのか!?


「クソッ」


 何にせよ考えるのは後だ。今はここから逃げ切らなければ。でも、逃げるったって、一体どこへ……?


「取り押さえろ!!」


 警官が一斉にこちらへ突撃する。もはや頭を動かしている暇なんて無い。俺は真正面へ向かって魔弾の銃を向けた。


 神様の手紙では、最後の弾は俺を助けると書いてあった。なら、最後の弾は六発目までとは違うのだろう。七と言えば幸運の数字ラッキーセブンだ。きっと最後の切り札に相応しい、この状況を打開できるだけの力があるんだ。


 ならば狙うは、ここにいる警官全員の心臓。

 狙った所に必ず当たるのなら、ターゲットが複数ならばその全てを貫くはず。特別な七発目だ。きっとそんな離れ業も成し遂げてくれるはず……!!


「退け!!」


 焦りと期待がない交ぜになった気持ちで叫び、引き金を引く。今までとは違う。まばゆい閃光を纏う弾丸が銃口から放たれ―――


 気付けば、俺は冷たい地面に押し倒されていた。


「容疑者確保!」

「銃を回収しました!」


 あっという間の出来事だった。俺が放った弾丸は警官全員どころか一人も殺さず、かすりもせずにどこかへ消えた。そして俺は一瞬で歩道に張り倒され、複数の警官によって両腕、両脚、胴体を押さえつけられる。それほど筋肉も無い俺に対して明らかな過剰戦力だった。


「クソ!何で、何で殺せないんだよ!魔弾は七発じゃなかったのかよ、神様!!」

「暴れるな!おい、お前も手伝え!」

「魔弾だの神様だの、何を言ってるんだコイツは……?」


 必死に抵抗するも、大勢の警官によって俺はあっさり拘束され、護送車に乗せられた。





     *     *     *





 独房は冷たい。床も、空気も、自分の気持ちさえも。

 俺は憎い相手を殺した。その過程で邪魔になる警官も殺した。それに後悔は無い。でも、他の方法もあったんじゃないだろうか。冷静になってみると、そんな考えが頭をよぎる。


 思えば、魔弾の銃を手に入れてからの俺の計画は杜撰だった。

 銃弾が分析できないから犯人が特定できない?現場から離れてしまえば安全?そんな訳がなかったのだ。指紋、監視映像、目撃証言。犯行を証明する材料なんてどこにでもある。

 なのに俺は、魔法の弾丸が手に入った事に浮かれて、早く殺したいと気が競って、結果として捕まった。目先の宝に目が曇っていたんだ。何とも間抜けな話だ。


「殺人罪……警官を二人殺したんだ。もしかしたら死刑かもなぁ」


 俺はきっと天国には行けない。死んでもあいつには会えなさそうだ。まあ、生きていても会えない事に変わりはないんだけど。


「いっそ、さっさと殺してほしいぜ」


 俺の独り言を拾う者はいない。独房の冷たい壁が受け止めるだけだ。

 そう思っていた矢先に。


「ぐ……ごふっ……」


 血を吐いた。咳き込むようにえずき、逆流した血がさらに口から零れた。

 胸に不快感を覚える。見下ろすと、俺の胸元からも真っ赤な血がダラダラと零れていた。


「な、にが……」


 視界が歪み、その場に倒れ込んだ。ちょうと俺の目の前に、小さな物体が落ちているのが見えた。俺の血で赤く染まっているソレは、昨日銃のシリンダーから取り出して確認した、銀の弾丸だった。


 発砲と共に虚空へ消えた、誰も殺さなかった魔弾。俺を助けると神が言ったはずの―――


「―――七発目の、魔弾」


 床に這いつくばったまま、血塗れの弾丸へと手を伸ばす。しかし、俺の指先が触れる直前に、弾丸は黒い灰になって上へと昇って行った。

 この弾丸に縋ったその日から、俺の不幸は決まっていたのかもしれない。


 自分が吐いた血の味すらも分からなくなり、仰向けに倒れたまま意識が薄れ行く中。天井へと消えていく黒い灰が、俺を見下ろして笑っている顔を形作ったように見えた。これが、魔弾の意思なのだろうか。


 たった七発の弾丸に振り回され、人生が狂い、最終的に命を狩り取られ人間を見て嗤う。そんなもの、神様というよりも。


「悪魔、じゃないか……」


 七発目。どこにでも当たる最後の魔弾は、主の呟きに応えたかのように、俺の命を貫いた。

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七発目の魔弾 ポテトギア @satuma-jagabeni

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