階段怪談

鳥辺野九

階段で怪談


 これは何かが階段を昇ってくる系の怖いお話しです。


 階段って上階と下階の行き来を分断するいわば境界なんだって。二つの違う空間を橋渡しするためだけの空間なの。神社ってけっこうな階段があるじゃない? 神様のいる空間へ渡るために鳥居の前に境目として階段を敷くの。


 境目の空間は宙ぶらりんな世界。行くあてのない良くないモノが溜まりやすいの。では『語部部』新入部員の子が語ってくれた階段の怪談。


 子どもの頃、おばあちゃんちに遊びに行った時の話。近くの神社の境内で子どもたちでひと通り遊んでた。で、暗くなってきたからおばあちゃんちに帰ったんだけど、そこで何かに目を付けられたらしいの。


 その子は帰ってすぐに、疲れちゃったからって晩ごはんまで二階で寝てたの。そしたら何者かが階段を昇ってくる音で目が覚めた。


「あと十二段で上がりだ」と、ぎしり。


 そいつはしゃがれた声で言った。


 その子は思い出した。神社の階段でじゃんけんグリコして遊んだっけ。その階段からそいつは追いかけてきたんだ。


「あと十一段だ」と、ぎしり。


 そいつはじゃんけんもしないで一段ずつ昇ってくる。


「あと十段」と、ぎしり。


 その子は布団にくるまってびくびく震えてた。でも、残り八段め。


「ねえ、今何時?」


 勇気を出してその子は言ってやった。律儀にもそいつは答えた。


「もう七時だよ。ったく、数えてる最中だってのに。ええと、あと六段」


 そいつは見事引っかかってくれた。うっかり七段目を数え忘れて、二階までの階段が一段足りなくなってしまったとさ。めでたしめでたし。


 って、落語かーい。


 怪談のオチとしてはそれでいいけど、問題はそこが境界ってとこ。一段抜かして数えちゃったから、そいつは境界を抜けられないでいるはずよ。


 今でも、おばあちゃんちの階段を数えてる。これからもずっと。


 不運の七段目を探して。


 ホントかウソかは、あなたも体験すればわかります。

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