全てを握る、7枚目

八咫空 朱穏

全てを握る、7枚目

 俺は今、友人のヤタと昼食をけてテキサスホールデムをしている。テキサスホールデムはポーカーの一種で、2枚の手札と5枚の共有札の計7枚を組み合わせて5枚で手役を作り、役の強いプレイヤーが勝つゲームだ。

 本来は複雑な駆け引きのある奥の深いゲームだが、今回は単にお互いの手札を公開して、先に3回強い役を作った方の勝利という簡単なルールで遊んでいる。


 大層なことをしているように見えるが、別にただのミニゲームだ。昼食もそんなに高額なものではない。


 1戦目は俺が、2、3戦目はヤタが、4戦目は俺が勝ち、2勝2敗で迎えた5戦目。


 俺の手札にはスペードのAとハートのAが来た。これは手札としては最強の組み合わせで、幸先がいい。

 一方のヤタはダイヤのQとクラブの7で、本来そこそこに強いがAAの元では劣る手札だ。


「ほう、これは勝てそうだな?」

「共有札を見てみなければわかりませんよ。ゲームとは、何が起こるかわからないから面白いのです」


 山札に手を伸ばして一番上の札をめくる。最初の札はハートのK。現状お互いに利益のない札だ。テーブルにそっと置いて、俺のターンは終わりだ。


 2枚目はヤタが共有札を引く。


 ヤタのひとみがカードをとらえたのち、下の方へと移動する。どうやらヤタにとっては良くない札が出たらしい。

 テーブルの上に表向きで置かれたのは、スペードのAだった。これで俺の役はAのスリーカード。大抵勝てる役が完成した。


「アンラッキーな札引いちまったな」

「ええ。でもまだ、共有札は3枚あります。勝敗は確定していませんよ」


 確かにそうだ。圧倒的に勝勢とはいえ、まだ勝ちが決まったわけではない。


 俺は3枚目の共有札を引く。


「確かに、まだわからないようだ」


 引いた札は、ダイヤの7だった。表向きにテーブルに置く。


「面白くなってきましたね。まあ、私が圧倒的に不利なのは変わらないですが……」


 そう言いながら、ヤタは山札に手を伸ばす。その絵柄を見て、少し表情がゆるむ。


「……まだ、運には見放されていないようです。まだ、わかりませんよ?」


 ――テーブルに置かれた札は、ハートの7だった。


 俺の役は、Aのスリーカードより数段強力なAと7のフルハウスという役に昇格した。しかし、役が昇格したのはヤタも同様で、7のスリーカードになった。もちろん、この時点でも圧倒的に俺が有利だ。ただ、それでもなおヤタの勝機が消滅したわけではない。


 ヤタには唯一の勝ち筋が存在する。そしてその勝敗を握っているのは、俺がこれから引く5枚目の共有札だ。


 山札に手を伸ばして共有札の5枚目、俺の使える7枚目のカードを引く。そしてそれを4枚並ぶ共有札の端っこ、QA77の7の隣にそっと置いた。


 俺が引いたのは――スペードの7。


 俺が唯一――44分の1の確率で負ける、その札を引いたのだ。


「……私の勝ち、ですね」


 ヤタは申し訳なさそうに宣言した。


「あぁ、今日のラッキー7はヤタの方だったみたいだ。俺の方はアンラッキー7だぜ」

「可能性はあったのですが……。いざ勝ってしまうと、なんというか、こう……申し訳ないです」

「まぁ、負けは負けだ。勝負の世界じゃあり得る事さ。さあ、昼食いに行くぞ。ちょっと場所遠いから、ほうきに乗って行こうぜ」

「そこまでしてもらうのはちょっと……」


 ヤタは魔法を使えないから、遠慮したのだろう。だが、勝者に遠慮など要らない。


「いいんだよ。それに見合う大逆転だったからな」


 かくして、俺は昼食をヤタにおごることになった。


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全てを握る、7枚目 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora

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