7のカード「戦車」の逆位置

7のカード「戦車」の逆位置

お父さんの車が新車になって、今まで凸型の趣味で乗ってたとても古い車が、ついにワンボックスカーだ。

物理的な針のアナログなメーターでなく、光のデジタル表示が気持ちよくて、ことあるごとにお出かけをした。家族で一台の車を使い回している。

しかし、かつての凸な車は、20になっていない女子には渋すぎたと、今思う。

家から駅が近いから、車は普段は待機で、たいてい使いたい時に乗ることができた。

その日はお母さんを連れてスーパーへ買い物に行っていて、その前に本屋に寄った。

地元に残っている唯一の本屋は、画集がとても少ない。諦めているけど、とりあえず見てみてやっぱり何もないに等しいことを確認して、それで新刊の漫画を見ていた。

読んでるものの新しいのはまだなのは、アプリのお知らせ来てないから分かってる。特に面白そうなのもないから、お母さんのところへ行こうと顔を横に向けた。

知らないおじさんが、荒っぽくどしどしと歩いてくるのが目にぶつかった。新刊の棚の前にいるこちらは、特に通行の邪魔になってないはずなのに、その人は、向かってくるのだ。わっと、飛ぶようにそこから退いた。おじさんはそのまま行ってしまう。

なんだ？　避けなくてはいけなかったのか。避けさせられたという形に、憤りを覚える。釈然としない。理解し難い人だ。

中学、高校と基本的に友達がいなくて、ぼっちだった。だから、人って他人にそんなに気を遣ってなくて生活している、ということを知ったのは大学生になってだ。都野りくという、男の子みたいな名前の女の子と友達になってそこから小さなグループというものに初めて属することになり、知ったのだ。みんな、それは、それなりに譲り合ったり気にかけあったりするけど、基本的に自分が気持ち良いように生きてる。自分の快適さを犠牲にして赤の他人にまで、その気持ちを推しはかってきた身としては、人類にカルチャーショックを覚えた。

例えば、高校生の時に、自転車がパンクして、お店で修理してもらっていた。しばらくして、お客さんで、大人の女の人も来た。年上だしな、と思ってこちらは、座っていた一つしかない椅子から立ち上がる。その人は当然のように、すっと、その場所を取り、なんの言葉もなく、私はなんだか悲しかった。

または、中学生の時に、家族で親戚の家に行った時に、苦手なおじさんがいて、二人きりの状況があった。気まずさを向こうも嫌だろうなと思い、この近くに美味しいパン屋さんってありますか？　と話を振ってみたけど、おじさんは不機嫌になった。みんながふたたび集まると、あの子は質問ばかりしてきてめんどくさい子だな、と言いふらされた。

そんな感じで、毎回、気を使いすぎて、こちらがダメージを受ける。

りくは、あなたは7のカードが常に逆位置になってるアンラッキー7な子ね、と笑った。

7のカードってトランプしか思いつかなくて、逆の意味がわからないと告げると、最近タロットカードに凝っていて、つい、って。

彼女の齧った知識によると、タロットカードの、22枚ある大アルカナと呼ばれるもののうち、7番目のカードの「戦車」が逆位置(見ている位置から絵柄が逆さまになってる)に出ると、行動を起こしたことが裏目に出る、と言うことが意味されるらしい。

あくまで大雑把だけどね、と、彼女は言うが。

凝るって、しかし、りくは、占いに熱中してるのかと思ったけど、カードの絵にハマってるらしく、それを無印のフォトスタンドに入れて飾るのが楽しいらしい。

わたし、天秤座だから、そういう趣味ってあるの、って同じ天秤座でも、そんなのないから、苦笑いした。

そんな彼女の話の非科学的なロマンチックさに、惹かれてYouTubeで今週の星座占いとか見てみるけど、カードを色々使って占っていて、基本大きな比重を占めるのは恋愛運であり、ついていけない。

チョコレートとかクッキーとか食べてる？　とりくがなぜか心配そうにいうから、好きなのはミンティアって言うと、その日のうちにおしゃれな洋菓子店に連れて行かれた。

りくのすることもたまに行き過ぎなことがある、と、思ってしまう。

だから、彼女の占い？　で、高校生の時の自転車屋さんのことや中学生の時のおじさんのことも、そういうところがこちらにあったのかもしれない、と感じることはできる。

本屋を出て、車を出した。

お母さんが、お父さんの最近のお酒の量を心配している。

お父さんは、心配しなくてもそのうち、自分で調整を始めると思う。今は多分、お酒が必要な時期なのだ。そんなふうに、気を回し解決の道なんかを考えすぎることを抑えていて、人を信じることを試している。それが正解か知らないけど、お父さんは、私にとって信じていい人だ。

りくや、その他の友達に出会って、何かが変わりつつある。

〈7のカード「戦車」の逆位置　了〉