アンラッキー7って、正気か?

にゃべ♪

いや、俺、別に不幸じゃねーし

 俺は前の仕事を辞めてしばらくニートをしていた。けど、そろそろヤバいのでせめてバイトでもと求人サイトを眺めていると、中々に面白いバイトを見つけた。

 何とか研究所ってところが一芸のある人を募集しているらしい。楽そうに見えたのでそこに応募してみる事にした。仕事の内容も治験みたいに観察されるだけっぽいし。こりゃ、競争率高そうだな。


 まぁ落ちてもいいかと応募してみると、書類選考に通ったと言う知らせが届く。そんな訳で俺は面接会場に向かった。普段着、普段の髪型、何も持ってこなくてもいいらしいので、その指示に従って手ブラで出発。

 こう言うのが罠の場合もあるけど、そうだったら落ちるだけなので別にかまわない。どーせバイトだし。落ちたら他を探せばいいし。


 会場に着くと俺以外に既に5人。全員がどこか暗い顔をしているのが気になる。しかも、年齢も体型もバラバラ。実験だから色な人が集められているのだろうか?

 それにしても、俺が来てからもまだ面接は始まらない。いつまで待たせる気だ。全員無口なので沈黙が重い……。


 待たされる事1時間後、もう一人この場所にやってきた。ぽっちゃり気味の人が良さそうな眼鏡の女性だ。小さめのタオルで汗を拭いている。


「すみません、遅れちゃって。まだ始まってないんですか?」

「それでは全員揃ったので、準備をします」


 どうやらこの面接は7人揃ってやっと始まると言うものだったらしい。それから俺達は何故か目隠しをされて無理やり歩かされる。その後、乗り物に乗ってどこかに移動して目隠しは外された。連れて来られた場所は、どこかの研究室のようだ。

 俺達の前に立っていたのは、司令官風の服を着たおっさん。コスプレか?


「よく来てくれた! 君達の協力に感謝する!」

「えと、バイトの面接……ですよね?」


 俺はこの雰囲気に違和感を覚え、つい質問をしてしまう。面接官であろうおっさんは腕を組んでいきなり笑い始めた。


「安心したまえ、君達は全員合格だ」

「は?」

「君達は私が選んだ不孝者だ。十分立派な働きをしてくれるだろう」

「え? 不幸?」


 俺は聞き慣れない言葉にオウム返しをする。そのリアクションも想定済みだったようで、おっさんは得意げに話し始めた。


「君達7人はみんな何かしらの不幸体質者なんだよ。私はそう言う人材を求めていたのだ」

「もしかして、仕事内容も嘘?」

「ああ、君達の真の仕事は世界平和だ。平和を脅かす悪と戦って欲しい」


 頭の中をはてなマークが飛び交っていく。このおっさん、正気か? 周りを見渡すと、全員がキョトンとしている。それは当然だろう。こんな事になると知っていたら誰ひとり来なかったに違いない。

 おっさんはこの部屋に満ちた微妙な空気を一切読まず、一方的に話を続ける。


「では、これから仲間になるメンバー向かって自己紹介をしてもらおうかな。後、自分の不幸体験も一緒に頼むよ。じゃあ、一番左端の斎藤君から」


 おっさんに指名されたのは一番左端に座っていた背の高い若者。そこから席の順に自己紹介をする流れになるのだろう。

 指名された斎藤君は席から立って、早速自己紹介を始めた。


「えっと斎藤です。21歳です。不幸体質は……雨男? とにかく大事な日は必ず雨になります。よろしくお願いします」


 斎藤君が座り、次は隣のメタボ気味のおっさんが立った。


「国枝です。41歳。えと、自分の不幸体質? あるとしたら、列に並ぶといつも自分のところで打ち止めって言うか終了しちゃうって事くらいかな」


 その後も不幸紹介は続く。次に立った吉川さんは32歳で、パチンコで自分があきらめると次の人が大当たりになる人。その隣の玉木さんは一番最後に来た女性で、約束の日に必ず寝坊する人。その次の村上さんは27歳で、誤字脱字のままSNSに投稿してしまう人。次は俺の隣りの人で30歳の尾崎さん。彼の不幸はついセンスの悪い服を買ってしまうと言うものだった。

 全員不幸自慢と言うにはあまりにもしょぼく、俺は心の中でツッコミを入れまくる。


「さあ、最後は君だよ。近藤弘樹くん」

「ちょ、何でフルネーム」

「いずれ分かる事じゃないか。25歳で2年ニートしてた近藤君?」

「もう俺の自己紹介それでいいですよね?」


 おっさんに全て言われた気がして、俺は自己紹介を拒否。これで全員分の紹介が終わったと言う事で、彼は更に続けた。


「と言う訳で、今日から君達7人は『不幸戦隊アンラッキー7』で活動してもらう」

「は? 俺、別にそんな不幸でもないですけど?」

「近藤君? 君はそのツッコミ体質自体が不幸なんだよ。今までにそれで失敗した事が何度もあっただろ?」

「ぐぬぬ……」


 おっさんの言葉に言い返せない。いや、それが不幸と言うなら無理矢理にでも突っ込みたかったのだけど、そうする事でおっさんが更に調子に乗りそうな気もして突っ込めなかった。

 俺が苦虫を噛み潰していると、おっさんはスーツの仕組みを話し始める。いつの間にか俺達の腕に装着されていた謎のギミックが変身アイテムのようだ。


「まずはそれぞれがかっこいいと思うポーズをしてくれ。そして最後にこのボタンを押す事で特殊スーツが展開される」

「ボタンを押せばいいなら、ポーズを決める必要は?」

「かっこいいだろ?」

「いや逆に恥ずかしいわ!」


 俺のツッコミを他の6人が感心しながら眺めている。よせやい、照れるぜ。て言うか、おっさんは俺の話を全スルーして説明を続行していた。


「このスーツは不幸をパワーに変えるんだ。だから君達でないといけないのだ」

「いや、その程度の不幸なやつは日本中に大勢いるから!」

「でも、応募してくれたのは君達だけだぞ。その行動力も大事な基準なんだ」

「応募者、これだけだったの?」


 俺は衝撃の事実に愕然とする。つまりは全員採用だったと。じゃあ、たまたま全員が不幸だったのか? そんな偶然ってあるんか?

 俺がこのあまりに都合の良い展開に首をひねっている間にも、説明は続く。


「このスーツの仕組みだが、不幸に同情する、哀れみパワーと言ってもいいな」

「てか、戦う敵なんていんの?」

「いるさ。いるとも!」


 おっさんがあまりに自信たっぷりに断言するものだから、俺も本当に敵がやってくるんじゃないかと思い始める。

 その時、急に警報が鳴り始めた。おっさんの背後でモニターが展開され、そこに謎の飛行物体が映される。どうやら、それは上空から降下しているようだ。


「ついに来てしまったか。アンラッキー7、出動だ!」

「いきなり無茶振りすな~っ!」


 俺の叫びは無視され、俺達7人は現場に向かう事になった。みんなそれぞれ律儀にポーズを取って変身している。国枝さんとか掛け声まで叫んでいた。俺は何もせずにただスイッチを押す。予想通り、それだけで変身出来た。

 現地に到着するまでは自動操縦の特殊車両が走ってくれる。その間に俺達は渡されたマニュアルを読む。いきなりの実践だ。覚えるべき事はあまりに多い。


 隣りに座った玉木さんは、必死に各種必殺技を覚えながら俺に話しかけてきた。


「まさかこんな事になるなんて思いませんでした。私なんかが未知の敵に勝てるでしょうか? 大した不幸でもないのに」

「て言うか、このメンバーに選ばれたって事が不幸じゃね?」


 俺の返事に全員が深く頷く。車内はまた暗い雰囲気になってしまった。そう言えば、メンバーに陽キャはいないんだよな。じゃあ、あんまり暗い話はしない方がいいか。もう手遅れかも知れないけど……。

 そして車は現地に到着して俺達は外に出る。敵が地上に降り立つにはまだ少しだけ時間の余裕があった。


 全員が空から降りてくる何かを見守っていると、腕輪からおっさんの声が響く。


「みんな! 今の内に不幸パワーを溜めるんだ」

「はい~?」


 この無茶振りに俺達は動揺する。


「そんなすぐに雨は降らないし……」

「行列なんてどこにもないよ?」

「今からパチンコする訳にも……」

「私の不幸は寝坊だよ? もう現場にいるんだけど」

「つ、つぶやきなら……って秘密のヒーロー活動をつぶやく訳には……」

「この辺りにしまむらある?」


 全員、自分の不幸を高められる状態にない。強いて言えば俺のツッコミなら出来る。けど、1人だけ抜け駆けするみたいで、雰囲気的に出来そうになかった。

 俺達が何も出来ないでいると、いきなり上空の存在が攻撃してきた。謎のビームが発射されて大爆発を起こす。


「「「「「「「うわ~っ!」」」」」」」


 スーツのお陰で怪我をする事はなかったものの、全員がバラバラに吹っ飛ばされた。俺は頭を振って何とか立ち上がると、他のメンバーに向かって声を張り上げる。


「て言うか、この状況が不幸なんじゃんか!」

「「「「「「それな~っ!」」」」」」


 解説しよう! アンラッキー7が着ている不幸感応スーツは、着用者が不幸だと感じると、それだけでパワーが充填されるのだ!

 と言う訳で、俺の一言で全員がパワーをマックスまで充填させる。条件が満たされたと言う事で、俺達の身体は勝手に動き始め、それぞれ決めポーズを取った。


「「「「「「「不幸戦隊、アンラッキー7!」」」」」」」


 背後で謎の爆発は発生しているだろうか? しかしそんな事はどうでもいい。今は目の前の敵を速攻で倒す事が先決だ。

 ここで、一番マニュアルを読み込んでいた斎藤君が叫ぶ。


「みんな、不幸バズーカだ!」


 それは戦隊モノお約束の最終武器。それぞれ固有の武器を合体させて巨大なバズーカ砲を作るのだ。初めてなのにみんな息を合わせてバズーカを完成させた。不幸がテーマの戦隊なのに失敗しないだと? と言うツッコミは口にしない。いい感じに水を差す必要はないからだ。


「「「「「「「不幸バズーカ、ファイアルアターック!」」」」」」」


 この一撃で敵は吹っ飛び、アンラッキー7の初バトルは無事に勝利をもぎ取った。みんなの顔に笑顔が戻る。俺達の戦いはまだ始まったばかりだぜ!

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アンラッキー7って、正気か? にゃべ♪ @nyabech2016

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