推しのために猫に手伝ってもらって腹筋する

ふさふさしっぽ

本文

 私は工藤あかり。

 深夜アニメの登場人物「魔導師の青年」をこよなく愛し、推し活に給料を注ぎ込む、二十八歳の女だ。

 現在拾った二匹の猫とアパートで三人(?)暮らし。たまに魔導師の青年も一緒に暮らしてる妄想をするから四人になるときもある。末期だ。


 今日のアニメ放送で魔導師の青年の女性の好みが分かった。

「スレンダーな女性が好み」

 らしい。


 私は明日の会社のことなど忘れ、深夜なのに腹筋をすることにした。

 なぜかって? スレンダーになるためだ。今の私は毎日の飲酒でぽっこりお腹なのだ。この腹をなんとかしなければ。魔導師の青年の女性の好みが分かった以上、いても立ってもいられない。

 だから、とりあえず腹筋なのだ!


「ココア、マシュー」


 手始めに、飼っている猫二匹を呼び寄せた。

 黒猫のココアと白猫のマシュマロ。二匹とも拾った猫だが、とてもよく私に懐き、最近は人間の言葉が分かるのでは? と思うほどの賢さだ。

 まあ、猫の世界のことは、人間の私には分からないけれど。


 足を抑える係を白猫のマシュー、カウント係を黒猫のココアに命じ、いざ、腹筋開始。


 三分後、私は部屋の床で力尽きていた。

 腹の筋肉がつりそうだ。

 普段運動していない人間の腹筋が、こんなに辛いなんて。

 というか、マシューはあまり足を抑える係の役目を果たしていない。猫の重さじゃ足りないのだ。

 ああ、青年魔導師が足を押さえて「頑張れ! 君ならできる、頑張る君が好きさ」と応援してくれたら、もっと腹筋できるのに。

 結局腹筋の数は十二回。自分で数えた。カウント係のココアは今や私の腹に乗り、顔を覗き込んでいる。


「ニャーニャーニャー」


 めちゃくちゃ顔を舐めてくる。マシューも足元から私の体を踏みつけながらこっちにやってきた。どうでもいいけどなんで腹の上に乗るのか。


 ……もう寝るか。明日早いし。


 二匹の重みを腹に感じながら、起き上がり、ベッドに移動しようとして、ふと思った。


 一杯飲んでから寝よ。


 本格的な腹筋は、明日からでいいや。

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