ジャンプマン

koumoto

ジャンプマン

「ジャンプマァァァァァァァァンッッッ!」

「ジャ、ジャ、ジャ、ジャンプマァァァァァァァァンッッッ!」

「きみもあなたもジャンプマァァァァァァァァンッッッ!」

「一家に一台、なんなら二台、持ってけ三台、意地なら四台、富あるかぎりこの筋肉へ! 家族に恋人に友人に! 父の日に筋肉、母の日に筋肉! クリスマス、バレンタイン、誕生日、なんのその! 春夏秋冬、二十四時間、三百六十五日外れなし! だれもが喜ぶプレゼントのキング、婚約指輪より手堅い約束、それこそわれらがジャンプマァァァァァァァァンッッッ!」


 きょうも広告が叫んでいる。富裕な顧客に呼びかけている。来るべき未来への道標、ジャンプマン。羽ばたけない人類への福音、ジャンプマン。親しみやすい人工筋肉、ジャンプマン。いまならポイント三倍セール。メリットとカタルシスの往復ビンタ。中抜きを噂される国家推進型利権商品、ジャンプマン。政府のお墨付き玩具、ジャンプマン。


「バッタも驚く驚異の跳躍力! 鳥もわななく未知への好奇心! 夢の天国までひとっ跳び! きみもいますぐ空へとレッツゴー! ジャ、ジャ、ジャ、ジャンプマァァァァァァァァンッッッ!」


 われらがジャンプマンとは、いかなるものであるか? 下半身に装着する、補助型の人工筋肉である。テクノロジーを注ぎ込んだ股引きと考えてもらってもよい。それを使えば、おとなもこどももおじーさんも、人間離れした跳躍が可能となる。ホッピングなんて目じゃないぜ。まさにジャンプのジャンプによるジャンプのためのジャンプ。それがジャンプマン。地面がめり込み、人が跳び立ち、宙の笑顔が風を切る。それがジャンプマン。われらが風物詩。

 もちろん事故が多発している。電線に引っかかる子ども。高層ビルの窓にぶち当たる子ども。崖すれすれで行われるジャンプ・チキンレース。子どもだけの話ではない。

 だが、それがどうだというのだろう。進歩に犠牲は付き物である。なんせ政府のお墨付きである。ジャンプマンは国民的大ヒット商品だ。関係者はボロ儲けである。利益は人命に勝る。多少の事故はなんのその。一説によれば、多発する事故からインスピレーションを受けた役人が、ジャンプマンを死刑執行のための器具として導入を検討しているらしい。それもむべなるかな。いまやジャンプマンを中心に経済はまわっている。

 空に羽ばたくのは人の夢。人間は技術で夢を叶えた。しかし、飛行機はその夢のかけらでしかなかった。筋肉だ。筋肉がすべての鍵だった。鳥の空からバッタの空へ。もういちど空を個人のものに。ふたたび空へと跳び上がる夢に。人工筋肉が約束するたしかなフロンティア。それがわれらがジャンプマン。さあ、きみも跳び立とう。きみのお小遣いを飛翔させよう。きみのお給料を旅立たせよう。ジャンプマンに。われらがジャンプマンに。


「ジャ、ジャ、ジャ、ジャンプマァァァァァァァァンッッッ!」

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