ひねくれ魔道士の憂鬱

ソルシエが帰った後、姫は大臣と会話していた。

姫は確かに脳筋だが、この国の主であることは変わらずいけ好かない大臣とも話し合わなくてはいけない。

この年老いた大臣は、ずる賢く私腹を肥やすありきたりな悪い貴族。

脳まで筋肉の姫にとってはなるべく関わりたくないし、姫の周りの人間も関わらせたくない人物。

この大臣にとって姫はネギを背負った鴨のようだ。

自分にとって都合のいいだけのことでもあたかもそれが当然で正しいことのように言えば簡単に騙されてくれる。

また大臣は姫の立場をいいようにしようとしていた。

「わかった。前向きに考える」

大臣の言葉に姫がそう答えると大臣は恭しく頭を下げて部屋を出ていった。

一人になった姫はいつになく神妙な面持ちで自室の扉をみつめていた。


一方その頃、ソルシエは家で眠りについていた。

ソルシエの家は、豪華ではないが暮らすだけなら問題ない、森の奥にある小屋だ。

彼は夢を見ていた。

とてもソルシエにとって幸せな夢だった。

夢の中でソルシエがテーブルに並ぶ料理に手を伸ばした時、突然ゴリラが突進してきた。

ソルシエが弾き飛ばされたところで目が覚めた。

起きたというのになんだか体がまだ重い気がする。

いや、確実に重くそして締め付けられている。

熊か大蛇か!?とソルシエが慌てて魔法で明かりをつける。

そこにいたのはソルシエの体に抱きつく姫だった。

「え?な、何やってんだ!」

寝ぼけ眼のはっきりしない頭でどうにかソルシエは言葉を絞り出した。

姫は何も答えない。

「こんな夜遅くに、一人で出歩くな!あと男の家に入るな。何かあったらどうするんだ?」

姫はソルシエの胸に顔を押し付けたまま何も答えなかった。

困ったように、観念したようにソルシエは姫の頭を優しく撫でた。

「どうしたんだ?お姫様」

少しの沈黙の後、姫のか細い声が聞こえた。


「……もう、会えないかもしれない」


それはまるで彼女ではないみたいに弱々しい呟きだった。

ソルシエは言葉を失ってしまった。

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脳筋姫とひねくれ魔道士 うめもも さくら @716sakura87

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