脳筋姫とひねくれ魔道士

うめもも さくら

ひねくれ魔道士の憂鬱

この世界の人間は2つに分けられる。

剣や武力を持って敵を討ち倒す武闘派ぶとうは

杖を片手に魔術で攻守ともに担う魔導派まどうは

魔導派は知識と精神力をその身にやしなえる。

武闘派は剣術と筋力をその身できたえる。

ゆえに魔導派は基本的に貧弱だが頭脳明晰ずのうめいせきなものが多く、武闘派は言わずもがな脳まで筋肉、脳筋のうきんが多い。

「でも一国一城いっこくいちじょうあるじが脳筋じゃダメでしょ!ねぇ、お姫様!」

男は美しい顔をしかめて、目の前で筋トレを続ける女性に詰め寄る。

「お?相変わらず大きい声だな!ソルシエ!」

姫と呼ばれた女性は男の表情とは違い、とても快活に笑っている。

「誰のせいで大きい声を出してると思ってるんだ?」

ソルシエがジロリと姫を睨むと、姫は、はたと動きを止めて驚いた表情で答える。

「もしかして私か!?」

「お前以外の誰がいる!毎度毎度、俺に大きい声を出させて怒らせるのなんてお前くらいだ、脳筋姫!」

姫はソルシエの言ったとおり一国一城の主だ。

彼女の両親が隠居いんきょしてから姫がこの国の実権を握っている。

そんな正真正銘、姫である彼女にソルシエの発言は無礼だと思われるかもしれないが、今この城に彼をとがめるものはいない。

それは彼が彼女の幼馴染であり、そして彼の怒りは毎度、至極当然のことだからである。

「何でもかんでも筋トレの道具にするなって、昨日、俺言ったよな?なのに、今日ここに来てみれば何でこの国の重要書類がここにあるんだ!?」

彼が指さした先には、彼女の筋トレ道具が所狭しと置かれている。

その一つの上にこの国の重要書類だろうか、山積みになった紙が乗っかっていた。

「重要書類を筋トレの重りにするなと何度言ったらわかるんだ!?」

ソルシエに怒った顔で詰め寄られても姫は豪快に笑っている。

「はっはっは。すまんな!昨日、筋トレをしていたら、それがけっこうコンディションがいい日でな!もう少し重くてもいいかもと思ってしまって!ちょうどそこにいい感じの紙の束があったものだから使わせてもらった!!」

「いい感じの紙の束じゃない!!この国の重要書類だ、きちんと目を通せバカ者!」

そう言って美しい眉をひそませながらもソルシエは、姫に更に文句を言いながらも重要書類を姫の机に戻していく。

姫は謝罪をしながらもやはり豪快ごうかいに笑っていて、怒ったソルシエにお前も片付けるの手伝え!と怒られたことは言うまでも無い。


そう、ここの城の人たちはわかっている。

この国は、脳筋のお姫様だけでは簡単につぶれてしまう。

この国は、姫の幼馴染、このひねくれ魔道士がいるから、やっていけていることを。






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