曖昧噺
猫市
立ち枯れの電信柱
遠野から盛岡へ帰る途中にみた不思議なもの。当時遠野のお店へ商品の委託をしていて、納品に行った帰り道のことだった。地形に詳しくないのでどのあたりと問われてもわからない。左側に林があり、その林に沿って道が緩くカーブしていたように思う。なので信号待ちで並んだ数台前の車はカーブの奥へ消えて見えなかった。車を停めた所でふと左を見たら不思議な光景が広がっていた。
電信柱が立ち枯れした状態で立っていた。
電信柱の周りは山を削り取った様に地肌が見えていて、奥には工事車両が数台停めてあった。電信柱は古い木で出来たものの形をしていて、上部が折れてだらんと下がっていた。ただ不思議な事に垂れ下がった部分は電信柱の一部も電線も風に揺れることなく静止している。そんな変なものが夕方の強い橙色の光に照らされてそこにあった。不思議な話だけど、見た瞬間こそびっくりしたがじっと見ているうちに違和感は消えてしまった。「ああ、夕陽が当たって綺麗だな」と思っていたら前の車が発進したので私も車を走らせた。暫く進んでから漸くおかしな事に気付いて「いや待ておかしいぞ」と一人でパニックになった。みたものを思い出せば出すほど違和感しかない。そもそも電信柱が立ち枯れしているって何なんだろうな。自分で思い出してもよくわからない。
立ち枯れの電信柱を見たのはこれが最初で最後だった。
次にそこを通った時に見えたのは木々が生い茂った深い林だった。
そもそも、山を削り取った様な工事現場なんてなかったのだ。
曖昧噺 猫市 @blue_labo
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