ちょっと、そこどいて!エーコが行くよ!⑤ ~深夜のマッスルカーニバル編
ゆうすけ
私の眼をごまかせるとでも思った?
これは、この街に住む二人の幼女と、彼女たちの新任担任教師と、彼女たちを狙うキモい男と、その幼馴染が繰り広げる物語である。
◇
「ふひひひ、き、き、金髪ちゃんの、い、い、家に忍び込んだぞ。や、や、や、やっぱり、ふ、ふ、ふだんから筋トレしていると、こ、こういうときに、や、や、やくに、たつ」
男はこっそり忍び込んだ金髪ツインテールの女児、エーコの家の庭に身をかくしながらふひふひと鼻を鳴らして、だれにともなくドヤ顔をしている。
「で、で、で、でも、家の中に侵入するのは、さ、さ、さすがに難しい」
男はリビングの大きな掃き出し窓のカーテンの向こうを悔し気に見つめている。カーテンには母親とおぼしきエプロン姿の女性とツインテールの女児が影絵になって映っている。
「あら、エーコちゃん、遅かったわね。今晩御飯作っているから先にお風呂に入って来なさい」
「はーい」
カーテンに映る影絵の女児はその場で上着を脱いで放り投げたかと思うと、その場で下着まで脱ぎだす様子が映った。
「エーコちゃん、リビングで全部脱ぐと寒いでしょ。服は脱衣室で脱ぎなさいってママ何回も教えたわよね」
「えー、だって脱衣室は狭くて脱ぎにくいんだもーん」
母親らしき姿の影が、腰をかがめて女児をしかりつけている。男はその様子を目を血走らせて観ていた。
「ぐほっ、あ、あ、あ、あ、あ、もしかして、今、金髪ちゃんは、す、す、すっぽんぽん? ふ、ふ、ひ、ひ、ひ」
男はあまりの刺激に鼻を押さえていた。だぼだぼと漏れる鼻血を男が必死にせき止めているときに、さらに煩悩を刺激する母親の声が耳に入る。
「あらー、ママ、大変だわ。ブラックペッパーを切らしてる! パパに怒られちゃう。あの人、ブラックペッパーがないとパンチが効かないって言ってDV男に変身しちゃうから、このままじゃ大変! ベースはそのままなのに結構味が変わるから、そのスープと海老雲呑を炊き込みご飯にインするのが通だとか、炊き込みご飯のとてもいい香りが広がらなきゃダメだとか、細かいところのこだわりがすごいのよね。エーコちゃん、悪いけどお母さんちょっと買い物に行ってくるから、お風呂入って待っててね」
そういうと母親はカーテンの向こうでエプロンを外して部屋を出て行った。一呼吸おいて扉がバタンと開き、つっかけをぱたぱたと鳴らしながら玄関から飛び出してくる。あわてて男が身体を縮める。母親はすぐそばの庭に男が潜んでいることにも気が付かないで家の外へと駆けていった。
母親が去った後に男が庭の茂みからひょっこり顔を出す。
「ひょ、ひょっとして、これはめ、め、めちゃくちゃ、チャ、チャ、チャンスなのでは?」
◇
そのころサヤカはミチエ先生と手をつないで夜道を歩いていた。
「ねえ、先生」
「なあに、サヤカちゃん」
「世界征服ってどうやってやるの?」
黒髪おかっぱのサヤカはあどけない顔で先生に聞く。先生は驚いた顔でサヤカを見返した。そしてゆっくりと邪悪な笑顔になって、ねっとりとサヤカに視線を向けた。
「もしかしてサヤカちゃん、先生の正体に気が付いたの?」
「はい?」
驚いたのはサヤカの方だ。まったく事態が呑み込めていない。ミチエ先生は赤い唇を闇夜にてからせながら不気味な表情でサヤカを見おろす。
「先生はねえ、先生というのは仮の姿よ。ふふふふ、世界中の気に入ったキャラをぬいぐるみにしてコレクションするのが先生の本当の仕事なの。ほら」
先生は懐からスマホを取り出し、その画面をサヤカに見せた。そこにはいろんなぬいぐるみの写真があった。球体のフクロウ、トリケラトプス、強面警官、皮ジャンライダー、手足の生えた将棋の駒……。
「サヤカちゃん、見ちゃったわね。本当はサヤカちゃんとエーコちゃん、二人セットでぬいぐるみにしたかったんだけど、とりあえずサヤカちゃんからで我慢しておくわ。ふふふふ」
「や、やめてー! 先生こわいー!」
サヤカは先生の手を振り払って住宅街の道を逃げ出した。
「ふふふふ、サヤカちゃん、逃げても無駄よ。先生の必殺立ち幅跳び、ミチエ・スペシャルジャンプを見たでしょ?」
そう言うと残忍な笑みを見せながら驚異の柔軟性でエビぞりになった。
「さあ、先生のコレクションの一つになるのよ! それー!」
◇
「ふひふひふひ」
男は家の中に堂々と玄関から忍び込んでリビングに入った。リビングの床に脱ぎ散らかされた服と下着を血走る目で凝視する。
「よ、幼女の、脱ぎたての服とし、下着。こ、こ、これさえあれば、二十一世紀の間はし、しあわせに、い、生きていける! じゅるるるる」
男はあふれるよだれを手のひらでぬぐって、床から服と下着を拾おうとした。
「よ、幼女の、ぱ、パンツ、し、し、し、しかも、ぬ、脱ぎたてのぬくもりつき! ぐひひひひぐひひひひぐひぐひぐひ」
男が手を付けようとした瞬間、鋭い声が室内に響き渡る。
「ひっかかったわね、この腐れ外道野郎! 私の眼をごまかせるとでも思ったの!?」
そこには怒りの形相の羅賀亜子がゆらりと仁王立ちしていた。
踵を踏みしめる。
腿の肉が燃えるよう。
腹の肉が体を捻る。
胸の肉が腕を振る。
腕の肉が、拳に全てを託す。
亜子の鍛え上げられた上腕筋が男の首根っこを正確捉えた。
「アックスボンバアアアアアアア!!」
男のぐえっといううめき声だけがリビングに零れ落ちた。
(続く)
ちょっと、そこどいて!エーコが行くよ!⑤ ~深夜のマッスルカーニバル編 ゆうすけ @Hasahina214
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