本気度と「出さない」という選択肢

脳幹 まこと

私は、薄氷の上を歩く度胸を持たない


 ある小説投稿者が自分自身のことを「底辺」と自称するとして、それが周りからも納得される度合いというのはどれくらいなのだろう。


 企画を覗いてみても、☆100以下求むとか、☆10以下求むとか、PVが1000以下とか、底辺という認識もまた色々な基準に分かれているのだ。


 ここでいう底辺とは、つまりは知名度のことであり、おそらく実力や素質のことではないのだろう。


 まあ、言葉の意味合いは本題とはあまり関係がないので置いておくとして。



 底辺だろうが、そうでなかろうが、本気で小説を作ることは出来る。

 私の最近の興味は「一作品に対して、どれくらい本気で書いているのか」ということなのだ。

 

 その主語には自分も入るし、読ませていただいている皆様も含まれている。

 

 例えば、今動いている「KAC2023」については、比較的短いスパンで作品を投稿することを求められる。

 これに関して、どれくらい本気(時間でもいいし、熱意でもいい)で向き合っているのか、ということにある。


 もちろん、いくらそれらを注ごうが、文章に表現されないこともあるし、「Not for me(私向きではない)」として読まれないこともある。

 実際、自分も「-ing形」でそうなっている。



 正味な話、最近はバントの連続になっている。

 KACは「777文字」で出すことを推奨(?)されている流れもあって、比較的少ない時間(1作品あたり2時間程度)で仕上げられるものを持ってきている。

 皆勤賞を目指したいというのも目的の一つだが、最も大きいのは「フルスイングすること」を恐れているという点だろうか。


 だが野球の醍醐味がバントだけかと言われると、それはもちろん違うと思っているし、

 フルスイングの位置になりそうな作品案も、いくつかは考えている。


 ただ……こうも思い始めている。


「これは絶対空振れない」と思うほど、熱意のある(肩入れしてしまっている)やつは……

 そもそも出すべきではないんじゃないかと。



「本気の本気を出して渾身の力でフルスイングしてみた! でも、空振りだった、残念! これも今後に繋がる良い経験だ! 次は更に頑張ってみよう!」

 で、済ませられればいいのだ。


 だが、小説で取り上げているものが、自分自身に深く根付いている感情や人生観だったりすると、厄介なことになる。


 人は無視されたり、軽視されていると感じると、それが意図的であろうがなかろうが傷つくもの。

 金銭を消費してしまうのは、最悪どうとでもなる。

 だが、精神の消費はクリティカルである。筆を折ることに直結するし、「人生そのものを無視された」という経験が人生を暗い影を落とすかもしれない。

(エンジョイ勢からエンジョイの源を取り除いたら、一体何が残るというのだろう!)



 ここで登場するのが「自分の本気度の高い(特に自分自身を深く投影している)ものは、出さない」という選択肢だ。


 つまり文章を書くだけ書いておいて、自分だけで楽しむということだ。

 それでもいいんじゃないかと思っている。


 そもそも小説サイトに何かしらを投稿するということは……つまり、自分の精神や時間を、大半は面識すらない他人に委ねるということなのだ。

  

 全財産、ないしは財産の大半を宝くじに捧げる人がいれば「なんてことを」と思うだろう。

 だが、上記の「絶対空振れない作品」の例だって、実質的には似たようなものなのだ。

 なのに熱意や思い入れがあるせいか、読まれてくれるだろうとか、妙な先入観で突き動かされてしまう。


 確かに、熱意のこもった作品は、誰かの人生を揺るがすかもしれない。

 だが、同時にそれは博打なのだ。しかもおそらくは割に合っていない。


 熱意ある作品は――少なくとも、自分の内だけにある間は――いくらでも自分の人生を励ましてくれることだろう。



「軟弱な」と笑っていただいても一向に構わない。


 だが、可能性を可能性のままにしておいた方がいい場合もあると、私は固く信じている。


「それでもいい! 自分はこの作品を書いて、みんなに見てもらうために産まれてきたんだ!」

 という方もいるかもしれない。


 その場合に関しては、真面目に凄いので、これからも邁進まいしんしていただきたいと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本気度と「出さない」という選択肢 脳幹 まこと @ReviveSoul

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ