『かわいい』彼は、男の子

CHOPI

『かわいい』彼は、男の子

「……これ、私一人で持つのか……」

 放課後、私は教室で一人、頭を抱えていた。


『委員長、放課後、悪いんだけどこれをもって職員室まで来てくれ』

 “よろしくな”、そう言われたときは“了解でーす”と暢気のんきに構えていた。と、いうのも、一応私は女の子、だけれど、力にだけは自信があるのだ。小さい頃から男兄弟の中で育って、やらせてもらえる習い事と言えば『お兄ちゃんが習っているから一緒に』、とのことで、柔道や野球のリトルリーグ。それを引きずって中学の部活は剣道をやって、なんてしていたら、まぁ、悲しいくらいに体力も筋力も付いた。ちなみに現在、高校でも剣道を継続中。最近は竹刀を振る速さをもっと早くしたくて、片手素振りの竹刀には重りを数個、付けている。


 そんなことも手伝って、全然余裕ぶっていたんだけど。……やってしまった、とうか、先生、流石に少し考えてくれないかなぁ……?


 目の前にあるのは大量のはがされたポスター類。紙だから所詮重さは目に見えている、んだけど。


「よい、しょ」


 試しに、と思って一応一回持ってみる。全然軽い、これくらいは余裕だ(なお、一般的な女の子たちからしたら重いのかもしれない、そこはわからないので当社比である)。ただ、やっぱり問題なのは……。

「前、全然見えなー……」

 ……そう。私のコンプレックスのひとつ。身長が、平均よりやや、小さいこと。


 言うて155㎝はあるので、普段から気にしているかと言えばそうではない。だけどたまーに不便、というか。そういうレベルの“小さい”なのだ。もっと小さければ『かわいい』って言われるし、逆に高ければ『かっこいい』になれた。そのいずれでもない、中途半端な“小さい”は、こういう時だけ本当に不便で。


「ま、行けるでしょ」

 いつも歩きなれてる校舎なんだし、それに今は放課後なわけだし。生徒が大勢いる中での運搬作業では無いから何とかなるだろう。そう思ってそれらを抱えたまま、一人教室を後にする。教室から職員室まで行くには階段を下りて1つ下の階へと向かわなければならないから、そこだけ少し怖い気もするけど。まぁ、感覚でいける、はず。


 件の階段に差し掛かって、少し慎重になりながら、一段一段降りていく。もうあと少し――……、という所で無意識化で気が緩んでしまった、のかもしれない。

「わぁっ!!!」

 あっ、やばい、足踏み外した。そう思った時には手から離れるポスター類、包まれる身体の浮遊感。うわ、最悪、これどう転んでも痛いやつだ――……

「危ないっ!」

 その声と共に包まれた身体の浮遊感が、誰かの手によって引き戻される感覚があった。そのまま落ちていく感覚、身体に感じる衝撃。……あれ、床の硬さじゃ、ない……?


「委員長、大丈夫?」

 真横から声がした。その方向を向くと、同じクラスの男の子がいた。


 彼は密かに女の子の間で人気がある。私はあまり興味はなかったけれど、丸くて可愛らしい輪郭によく似あうサラサラのマッシュヘア。いつもニコニコしているその顔はきっとお母さんになんだろう、とてもきれいな顔をしていて。男の子にしたら少し低めの身長も相まって『カワイイ』とよく評されている。


 その子がなんで、今、真横に? 混乱する頭で状況を把握しようと少し痛む身体を起こす。

「けが、無さそう?」

 そう聞かれて身体を確認する。……大丈夫だ、問題なさそうだった。

「うん、大丈夫。助けてくれてありがとう」

 そういうとその子はちょっと苦笑いで『あんまり無理すると危ないよ』と釘を刺してくる。助けられた手前言い返せるわけもなく、大人しく首を縦に振った。


 ――……よし。オレも手伝うよ


 そう言って床に散らばったポスター類を集めて、一緒に持ってくれることになったんだけど。女の子たちの間でよく話題にあがる『かわいい』彼が、ことも無くひょいっと荷物を持った時、その腕が筋張ってて、それを見た時なんかうまく言えないけど、『あぁ、男の子だ』って思って。


「行こ、委員長」

「あ、うん」

 その時私は『ありがとう』とすら返せないくらい、ドキドキしていた。……階段で転んだせい、ということにしておきたいけど、それから職員室までの短い道中も、職員室で先生に荷物を渡した後も、『それじゃ、また明日』と彼が去っていく背中を見送った後も、家に帰ってからもずーっとドキドキしっぱなし、だったので。


 もしかすると、もしかするのかもしれない。なんて思った。


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