ガストンとタキシード仮面、ときどきエドガー。そしてTLヒーローに関する個人的見解

micco

私は筋肉が苦手である

 今から綴る文章は、タイトルをすでに読んでお分かりの通り「筋肉が苦手である」ことを申し述べていくものであり、よくあるどんでん返しのように「え、やっぱ筋肉ちょっといいかも///」みたいな展開をご期待の方は恐らく通知を賑わせている筋肉小説(語弊)をお読みいただければと思う。


 いや、誤解を恐れず言えば、最近Twitterのフォロワーが描いた別のフォロワーの小説FAのマッチョ狼男の首周りに過剰な胸の動悸を感じたことは、全くの事実であることを告白したい。(これは私のフォロワーであれば「マッチョ愛の萌芽」「お前も遂にこっちに来たか」というリプに対し、私が困惑とアイデンティティの揺れを吐露したことは記憶に新しいことと思う。)

 しかしその事例に関しては「マッチョ愛の萌芽」ではないことが全micco一致の見解をみている。つまりそれは、「キャラ愛」もしくは「推し」への動悸息切れであり、筋肉による身体症状ではない、と。


 ――前置きが長くなってしまったが、以下は私が「なぜ筋肉が苦手になったのか」の主題からこれまでの人生を振り返る内容になっている。ご興味がおありの方はどうかお付き合いいただきたい。


     ✴


 まず語るべくは幼少期であろう。

 私は東北の片田舎、二人娘の長女として生まれた。え、そこから? と驚かれる方もいるだろう。そこからなのだ、恐らく筋肉について語るには私の家族を語る必要がある。


 私の家族は小さい。

 現在立派なアラフォーである私の身長は150㎝で、五人いる家族の中で二番目に大きい。よろしいか、二番目にのである。ちなみに一番大きいのは父の160㎝で、次が私である。

 さらに言えば、体型が丸い。

 最近のことだ、実家に帰ってソファに浅座りをしていた私に父は「なんだお前妊娠したのか!」と叫んだ。私は「はぁ?」と半笑いで返し、「太ったんだよ!」と腹を叩いた。そのときの仕草はイメージ的に『平成たぬき合戦ぽんぽこ』か『釣りバカ日誌』の映画の浜ちゃんを思い浮かべていただければと思う。

 それに父は大爆笑し、「そうだよな、うちの娘だもんナ!」と深く納得した様子だった。

 話を戻す、つまり私は所謂ぽっちゃり系家系である。


 以上二点のことから、幼少期における「小さめで丸っこいぽよぽよしたもの」へのアタッチメント(愛着)の誕生をご理解いただけると思う。




 ――小学生時代に移ろう。

 この時代、私の純真無垢でイノセントワールドだった心の地図に「筋肉=悪」の方程式が成立したのは間違いない。少し長くなるが、聞いていただきたい。


 みなさんはディズニー映画の『美女と野獣』をご存じだろうか。一応のあらすじはこうだ。

 美しく賢いヒロインのベルは発明家の父と二人暮らし。発明品を売りにでかけた父は、呪いをかけられた野獣の城にうっかり迷いこむ。その父を助けるためにベルは野獣に囚われ、しかし暮らすうちに野獣に惹かれ――最後は愛のキスで呪いを解く。

 というビューティー&ビーストな訳だが、これに出てくる悪役が私は大嫌いなのだ。それは誰か。


 ガストンだ。


 思わず改行を使ってしまうほどには強調したい事実である。確認のためにもう一度言おう。私は無駄に筋肉をひけらかし生卵をお手玉のようにして五つも六つも飲みこむ足が臭くて空気を全く読めない責任転嫁ガストンが大嫌いなのだ。

 いやあいつも憎めないやつだよ、とフォロワーは言ったが、初めて好きになったディズニー映画しかも恋愛アニメによる「刷り込み」を舐めてはいけない。

 今界隈を盛り上げているRRRを何Rした! というような熱意で申し上げたい。

 ガストンが大嫌いだ。

 これは個人的ではあるが度重なる検証の結果である。私は当時、件の『美女と野獣』にドハマりし、同時期に放送していたセーラームーンの録画と交互に観すぎて、将来を心配された祖父にビデオ禁止を言い渡された過去を持っている。


 ちなみにセーラームーンについて語り始めると恐らく字数が(KACに字数制限がないにしろ)大変なことになるので、少しだけにすると、タキシード仮面がタキシードを脱いでシックスパックだったら悪夢であろうと主張する。それは地場衛が清潔そうなシャツを脱いだら――おっとこれはのちに詳しく語らせて欲しいのでここでは割愛する。


 つまり、いやなにがつまりかは怪しくなってきたが、ベルや野獣に対してこれでもかと不届きな行動をするガストンは悪、筋肉を愛し筋肉を以て自己中心的な行いをすることは悪、筋肉は悪! という確かな道筋が十歳のイノセントな心の地図に刻み込まれたという訳なのだ。


 そして私は高学年に上がり、ハウス名作劇場やNHKアニメ、衛生アニメ劇場で基礎としては充分な量の学習を経て経験値を得て、一気に漫画大好き少女へと進化を遂げる。もちろん愛読書はセーラームーン放送前から嗜んでいた『りぼん』と『なかよし』を筆頭に、母の集めていた萩尾望都や山岸凉子ら「24年組」さらには手塚治虫へと手を広げていく。

 特に小学館の萩尾望都全集を読み漁り、『ポーの一族』ならエドガーアランよりも巻き毛長髪のオズワルド(エドガーの子孫)が好きとか、『11人いる!』黒髪短髪でフロルに優しいタダが好き、というような今に至る性癖の土壌を培って、これ以降これでもかと肥料を与え続けたことはフォロワー的にも想像に難くないと思う。

 つまり(つまりだ)、シュッとした少年が好きなのだ。

 こんなことは言いたくないし想像もしたくないが、みんな、心の瞳で君を見つめれば愛することそれがどんなことだか分かりかけてくると思う。(分かるかな。)

 想像せよ――


 エドガーのシャツがひらめいてアランと手を繋いだ瞬間、腹筋が割れていたら


『ときめきトゥナイト』の真壁くんがボクシングを極めてしまい、笑顔で蘭世にポージングしたら


 きっと、のちの地場衛もムキムキになっていたのだろうが、そんな未来は私が許さないしムーンスパイラルハートアタックである。(許さないという意志)

(ただ唯一許してもいいと思えるのは恐らく『天ない』の晃だろうが、話が拗れるのでやめておく。)


 少女としての私はこのようにして、「筋肉は悪であり、シュッとした美少年こそがジャスティス」という結論を得る。そう、無意識の意識として私自身を創っていくことになる。

 そこからはもうユングも首がもげるほど肯くほかない、すくすくと性癖の枝葉を伸ばした厨二病ティーンエイジャーmiccoの誕生である。


 そうして(みなさんも通った道と存じ上げるが)、某月基地の浅黒過去闇ツンデレヒーローに恋して全キャラのパスワードを丸暗記したり、玉を集めて朱雀(神龍でも可)を召喚する中華系にハマったことで大人の階段を上り、コバルトそしてホワイトハート(すでにマイハートの純情は三分の一)を履修、のちに本格ファンタジー小説へと腐海を広げていくことになる。




 さて、話を筋肉に戻す。

 前述のような道を辿り、アラサーとなった私はある時代の特異点に気づく。

 TL漫画のヒーロー脱いだら腹筋割れてる現象――これは光陰矢の如しゆく川の流れは絶えず月日は百代の過客と言えど、明らかに近年の傾向であると主張したい。


 よろしいか、レーディングの厳しいカクヨムにおいては明記することを憚られるような展開によって、主人公(受け)とヒーロー(攻め)がベッドにインすることになる。それは壁ドンでも床ドンでも欽ドンでも良いのだが、とにかく主人公は早々とまいっちんぐな格好になってしまうだろう。しかしヒーローはまだだ。まだ焦らすのだ、主人公も読者も。読者は待っている、セイントテールの正体がバレるのを、セーラームーンの変身シーンをまもちゃんが見てしまうのを、ヒーローが舌舐めずりしながら辛抱堪らんとシャツを脱ぐのを――――。


 そして割れた腹筋である。


 お分かりだろうか。おぎゃあと生まれてからこっち、Mr.Childrenでマジックナイトだった私の心が悪を知り、愛を知りエロを愛でるようになった結末がこれよ。じゅん、とした心もカピカピよ。

 一体いつからヒーローは腹筋が割れるようになったのだろうか。この疑問に詳細にお答えくださる方がいるのなら、私はすぐさま傾聴したい。


 もちろん私は、筋肉がお好きな方を否定するわけはないし、推しの推しは推しであることも宣言していく所存。マッチョ好き妖精も髭好きも眼鏡狂いも尊ぶべき性癖である。これは紛れもない本心である。どうかみんな仲良くしてね。




 ――そういう訳で、いやそういう訳でいいのかどうかもはやよく分からないが、私は未だに筋肉が苦手である。



 了


 ――――――――――――――

 私の愛するフォロワー、面白すぎる作品、敬愛する漫画作家のみなさまに心からの感謝を。

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