幽霊の筋肉見たり枯れ尾花

鳥辺野九

面白君千歌先生


 これは筋肉にまつわる怖いお話、っていうか、筋肉とハッピーが同義語である以上筋肉怪談なんてないわね。今回は幽霊の見分け方です。


 ホンモノの幽霊か、フェイク幽霊か。ある一点に注目すればほぼフェイクだと見抜けるって面白先生が教えてくれた。


 面白いって書いてツラシロ。面白君千歌つらしろきみちか先生。通称キミッチ。担当科目は現代文。そして我が『語部部かたりべぶ』顧問。


 変態性自然主義文学の露骨な描写は現代のボーイズラヴ小説と通ずるところがある。だがしかし、ややもすれば理想に近付きたいがために過激に美化する一面もあり、それが杞憂に終わることを強く望む。皆さんにおかれましては、田山花袋の『蒲団』の一幕のように、汗と涙、その他分泌物が染み込んだ布団の匂いを嗅がれるような文学女学生に育て上げることこそ私の究極の使命で──。

 赴任初日挨拶途中で学年主任に引き摺り下ろされた伝説の持ち主だ。


 三白眼で眼鏡越しの上目遣い睨みさえなければとっても美人な先生なのに。もったいない。


 キミッチはよくフェイク幽霊の見分け方を教えてくれる。


 正体不明の存在に遭遇したらそいつの衣服に注目する。幽霊は脳内リソースを活用して像を結ぶ。知っているメーカーの服を着ていれば、そいつは脳が勝手に作り出した虚像、すなわちフェイクだ。


「幽霊が全裸だったらどうすんのー?」


 バカが反論したが、キミッチはたじろがない。むしろ望むところとほくそ笑む。


 全裸ならば筋肉を注視する。人間は自らの括約筋を見ることはできない。括約筋がリアルに再現されていなかったら、それは脳が作り出した虚像、すなわちフェイクだ。括約筋が露骨に描写されたボーイズラヴ漫画を紹介しよう──。


「先生、授業を進めてください」


 授業初日にして学級委員に叱られた伝説の持ち主だ。語部部の顧問にぴったりじゃん。私は速攻でスカウトしたさ。


 ホントかウソか、あなたも体験すればわかります。

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