異世界魔法少女真依 ~筋肉には筋肉!~

にゃべ♪

モリモリマッチョなモンスター

 西日本にある地方都市『舞鷹市』。その街に住む女子中学生の真依は、ひょんな事から魔法生物のトリと一緒に異世界『ラースワーズ』に転移してしまう。状況が分かった彼女は、すぐに元の世界に戻る方法を求めて旅を始めるのだった。


 大賢者の機嫌を損ねて追い返されてから数日後、真依は凶暴なモンスター討伐の依頼を受ける。早速現地に向かったものの、彼女はその道中で迷ってしまうのだった――。


「うわっ何も見えない……」


 モンスターがいると言う森に入った途端、辺りは白い霧に包まれる。視界がほぼゼロになってしまい、真依は途方に暮れた。

 資料によれば、この森の別名は『深淵の森』。霧が出た時は必ず迷ってしまうと言う話だ。霧の発生条件は不明で、一度発生すると一日中森を包み込んでしまうらしい。


「タイミングが悪かったホね。真依の日頃の行いが悪いせいホ」

「な・に・か・い・っ・た・か・な?」


 真依はトリを持ち上げ、空中で拳を目の両脇に当てて支えながら強くグリグリする。痛がった彼は当然そこから逃れようと暴れだした。


「止めるホ! 聖獣虐待ホ!」

「なら、聖獣らしく役に立って見せてよ」

「何をさせる気ホ?」

「空から見下ろしてどこに行けばいいか教えて……ねっ!」


 彼女はトリを思いっきり放り投げる。変身して体力強化状態で投げたので、その丸い体はかなり高く上がったはずだ。真依は投げた先を見つめながら吉報を待った。

 しばらくして、小さな羽をむちゃくちゃ羽ばたかせながらトリは戻ってきた。落下地点で上手くチャッチした彼女は彼の顔を覗き込む。


「どうだった?」

「上空まで真っ白で何も分からなかったホ」

「使えねー」

「僕だって頑張ったホ!」


 その後も延々と続くトリの抗議をスルーして、真依は顎に手を乗せる。この霧が自然のものなら、晴らす事が出来るかも知れない。そう結論付けた彼女はすぐにそれを実行に移した。


「フルチューンダイレクトボンバー!」


 ステッキの先から発生した巨大なエネルギー弾によって大きな気流の渦が発生する。これによって霧は霧散していくはずだった。

 しかし、結果は何も変わらず。白い霧は渦をすぐに飲み込んでしまう。何か不思議な力が働いているらしい。


「何でよー!」

「考えても仕方ないホ。とにかく進んでみるホ」

「トリはこの霧、晴らせないの?」

「それが出来たらとっくにやってるホ」


 遭難した時のセオリーはその場から動かない事。真依はそれを知っているので動かなかった。ただし、動かなければ何も変わらない。しびれを切らしたトリが彼女の背中を押す。


「どこでもいいから動くホ! そうしたら何かが分かるホ!」

「押さないで! あんたは飛んでるから地形関係ないけど、私は歩いて……」


 視界ゼロの中で無理やり歩かされた真依は、足を滑らせて崖下に滑り落ちてしまった。変身したままだったので怪我はなかったものの、更に迷ってしまったのは間違いない。

 その原因になったトリにきっちりお仕置きをして周囲を確認すると、前方に建物らしきものが見える。どうやらこのエリアは霧が薄いようだ。


 建物もあるなら人もいるだろうと、彼女はその人工物に向かって歩き始める。辿り着くと、そこは小さな集落のようだった。

 村の中は霧も薄く、ある程度は周囲を見渡せる。辺りは静かな気配に満ちていて、人の気配はほぼ感じ取れない。そんな中、1人だけ人影が目に入ったので、真依は話を聞こうと駆け寄った。


「すみませーん!」

「真依?」

「梨花? なんで?」


 そこにいたのは真依と同じく地球から転移した魔法少女で、彼女の友達の梨花。思わぬ場所での再会に、真依は目を丸くする。

 振り返った梨花は左手を腰に当てて、軽く事情を説明した。


「あたしは仕事で来たんだけど、真依も?」

「じゃあ、もう倒しちゃった?」

「いや、あたしのは討伐依頼じゃないよ」

「な~んだ」


 目的が違ったので真依は軽くため息を吐き出す。それから、改めて彼女は周囲を見渡した。


「ここ、どこなの? 深淵の森の中に村があるとか聞いてないんだけど」

「ここに人はいないよ。滅びたのか、住人が全員出ていったのかは分からないけど」


 一足先にこの場所に来ていた梨花の話によると、どうやらこの村は既に廃村になっていたようだ。確かによく見ると人の気配がないだけでなく、建物もかなり朽ちていて、遺跡のような雰囲気になっている。自然に朽ちたのか、災害があったのかは分からないものの、人工建造物のほどんどはかなりボロボロになっていた。

 入口近くにいたと言う事は、梨花は目的を果たして出ていこうとしていたところなのかも知れない。


「ねぇ、梨花の用事はもう……」


 真依が自分の考えの確認をしようとした時、どこからともなく岩が飛んできた。先に気付いた梨花が魔法のムチでそれを弾き返す。

 弾かれた岩は集落の建物に当たり、大きな衝撃音と共に派手に破壊された。


「ここはヤバイよ、逃げよう」

「いま投げてきたの、私の依頼のやつかも! ちょっと倒してくる!」

「えっ……」


 真依は岩が飛んで来た方向に目星を付けて魔力を足に充填。十分に力が溜まったところで一気に飛び出した。一瞬で姿が見えなくなり、置いていかれた格好になった梨花は大きくため息を吐き出す。


「全く、状況も確認せずに飛び出すなんて……」

「どうするニョロ?」

「そんなの決まってる!」


 無鉄砲な友達を心配した梨花もまたすぐに後を追う。彼女のお供マスコットのナーロンも、ワンテンポ遅れて走り出した。廃村を出ると、また白い霧が濃くなっていく。けれど、魔法少女同士の気配察知で梨花は正確に真依の位置を把握出来ていた。


「あたしが行くまで負けてないでよっ!」

「ちょっと待つニョロ~」

「ナーロン、まだまだ飛ばすよっ!」

「そんな、殺生ニョロ~!」


 梨花とナーロンが必死に森の中を走っていた頃、最大跳躍力で大きくジャンプしていた真依は霧の中に沈む小高い丘に着地する。次の瞬間、強大な魔力が相互干渉を起こして周囲の霧が一気に晴れた。

 そして、視界が明瞭になったところでトリが叫ぶ。


「いたホ!」

「さっき岩を投げたのはあんただね。そしてこの世界に馴染まないその姿。見覚えがあるんだけど」

「何故、この世界に魔法少女がいるんだ……」


 そこにいたモンスターは動揺しながら流暢に言葉を喋った。魔法少女の事を知っていた事からも、以前トリを襲っていたモンスターの仲間のようだ。つまり、魔法少女が戦わねばならない真の敵の1人。そして、相手も本気で倒しにかかってくる事は容易に想像がついた。

 真依はゴクリとつばを飲み込むとステッキを握り直し、慎重に間合いを探る。


「あんたこそ何でこの世界に? ギルドの討伐対象になってたけど」

「俺はこの世界の調査で来ている。邪魔をする奴らを排除していただけだ」

「じゃあ、今から音信不通になる訳ねっ!」


 先手必勝とばかりに、真依は先制攻撃を開始。会話中に魔力を溜めていたので、初手から大技を繰り出した。


「フルチューンダイレクトボンバー!」


 ステッキにフルチャージさせた巨大な魔法弾がモンスターに直撃、大爆発を起こす。発生した爆風を真依は両腕でガードした。


「やったホか?」

「ふん、この程度か。他愛ない」


 爆風が収まると、そこには無傷の敵の姿があった。最強の魔法が通じない事実に、真依はガックリと肩を落とす。


「嘘でしょ……」

「今度はこっちの番だなあ!」


 筋肉モリモリなマッチョモンスターは素早い動きで真依に迫る。秒で間合いを詰められ、繰り出されるパンチを紙一重で避けた。しかし、その時に発生した風圧が彼女の肌を傷つける。

 肉体強化状態の彼女ですらその素早い攻撃を避けるので精一杯。全く反撃のチャンスは与えられなかった。


「避けるのだけは上手いようだな」

「くうっ!」


 何とか直撃は避けているものの、傷は次々に増えていく。蓄積されたダメージで動きが鈍ったらおしまいだ。しかし、その時はあっさりやってきた。

 バックステップをして少しよろめいたところで、敵の太い腕が真依を襲う。


「そろそろ終わりだ!」

「そうはさせない!」


 危機一髪の場面で梨花がこのバトルに乱入した。しかし、敵の一撃で防御結界にヒビが入る。彼女の魔法を持ってしても一撃を防ぐので精一杯なようだ。

 すぐに戦況を理解した梨花は、真依にキノコを差し出す。


「これ食べて」

「え? 生で?」

「魔法コーティングしてるから大丈夫」

「なんで食べなきゃいけないの?」


 一向に食べようとしない事に苛立った梨花は、無理やり真依の口にキノコを押し込んだ。

 強制的に食べさせられた彼女はモグモグと咀嚼して、それをゴクンと飲み込む。


「んまい!」


 そのキノコの効果はすぐに現れた。真依の筋肉がどんどん成長していったのだ。一気にボディビルダー体型になったところで、敵の攻撃によって防御結界が破壊される。


「そんな付け焼き刃の筋肉で俺が倒せブベラッ!」


 マッチョになった真依はワンパンで敵をふっとばした。ものすごい勢いで岩壁に激突したそれは大きなクレーターを作り、その拳圧で一気に白い霧をも吹き飛ばす。


「何これ?」

「やったじゃん。流石はマッチョキノコ」


 どうやらさっき梨花が食べさせたキノコはマッチョキノコと言うらしい。食べた者を無敵の筋肉に変える幻のキノコなのだとか。そのキノコの採取が彼女のクエストだった。


「何で梨花が食べなかったの?」

「だってマッチョになんてなりたくなかったし」

「は?」


 2人の雰囲気が悪くなりかけたところで、トリが叫ぶ。


「みんな、こっちに来るホ!」


 モンスターを倒した場所に次元の裂け目が生まれていた。どうやら強い力がぶつかると発生するらしい。今回の裂け目は真依達が集まった時点で閉じてしまった。

 それを見た真依は、ポンと手を叩く。


「もしかして、強いモンスターを倒せば帰れる?」

「きっとそうだよ!」


 こうして険悪な雰囲気も消え、2人に希望が見えたのだった。

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異世界魔法少女真依 ~筋肉には筋肉!~ にゃべ♪ @nyabech2016

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