マッチョな抹茶カフェ「お姫様抱っこ体験できます💪」

天雪桃那花(あまゆきもなか)

イチオシメニュー「お姫様抱っこ体験出来ます!」

「憧れのお姫様抱っこをしてもらえるですってぇ!?」

「しっ……。麗子さん、声が大きいですわ」


 あたくし、白鳳院麗子はくほういんれいこと申します。

 こちらお友達の九条寺彰奈くじょうじあきなさん、九条寺コンツェルンの一人娘でいらっしゃいますの。


 あたくしのひそやかなる願望はお姫様抱っこ!

 それも鍛え抜かれた美しい筋肉をお持ちの方がしてくれる、お姫様抱っこに憧れを抱いておりますの。


 実はあたくし先祖代々からの大金持ちのお嬢様ですが、見かけほどおしとやかではございませんわ。

 誘拐や強盗から身を守るべく、両親の言いつけで幼い頃から柔道空手レスリングにボクシング、ありとあらゆる格闘技などで体を鍛えまくったお嬢様格闘家なのです。

 あたくし、一応ボディガードがついておりますが、ほんとはほとんど要らないぐらい強いのです。

 そんなあたくしですけれど、本音は殿方に守ってもらいたい願望がありまして。



 学園での授業を終えまして、あたくし喜び勇んで彰奈さんのおすすめの「マッチョの抹茶カフェ」にやって参りました。


「ここは抹茶スイーツが美味しいのですわ。それから……麗子さんおまちかねのお姫様抱っこもメニューにありますのよ」


 彰奈さんはVIP会員なので(そんなに足繁く通い詰めてらっしゃるのね)個室に通されました。

 ウエイターは細マッチョの大和貴族風のかなりのイケメンでしたが、申し訳ございませんがあたくしの好みではございません。

 こう……筋骨隆々で、男らしい顔のプロレスラーみたいな方で、かつ、教養と色気を醸し出した雰囲気のマッチョにお姫様抱っこされたいのでございます。

 まあ、はしたない。

 お父様とお母様には言えない願望でございます。

 マッチョ好き仲間の彰奈さんにだから打ち明けられた胸の内でございます。


 メニュー表を開けると色んなマッチョの文言が並んでおりますが写真などはないので、あとはその言葉の紡ぎから自分で想像するしかありませんね。

 ――これが良いかしら? 『和服マッチョがお姫様抱っこ抹茶スイーツコース』?


「麗子さんなら、この『和服マッチョがお姫様抱っこ』がよろしいかしら?」

「あら? さすが彰奈さんだわ。あたくしの好みをバッチリ理解されてらっしゃるのね」

「それはそうですわ。わたくし達は健全な筋肉を愛するお嬢様仲間ですから。わたくし、学び舎で麗子さんと殿方の筋肉の尊さについて語らう時間が大好きですの」


 彰奈さんがそうおっしゃると、あたくし友情で胸が熱くなりました。

 注文をしてくださった彰奈さんと共にウキウキしながら待っておりました。


「いらっしゃいませ。お嬢様方、こちらをどうぞ」


 あたくしと彰奈さんの目の前に抹茶で出来た美味しそうで見事なパフェのグラスタワーが置かれ……。

 そして、筋肉盛り盛りのたくましい二の腕を、捲くったお着物の袖から惜しげもなく出してらっしゃる殿方がお二人隣りに立ちました。


「「ようこそ」」

「……はじめまして」

「まずは当カフェ自慢の抹茶パフェをお召し上がりください」

「まあ、お友達の麗子さんはパフェも大好きでらっしゃるけれど、今日はお姫様抱っこをお楽しみなさっていたの。一度デザートを召し上がる前に先にやってさしあげてくださらない?」


 彰奈さん、ちょ、ちょっと! 直球過ぎてあたくし恥ずかしいのですけれど……。

 と、思っておりましたら、和服のイケメンマッチョの店員さんが腕を広げ、ニッコリと微笑みました。

 端正なお顔立ち、着物が少しはだけた胸元から鎖骨……硬そうで鍛えられてる筋肉がちらっと見えて、色気をほのかに立ち昇らせています。


「さあ、おいで」

「――ッ!」


 お、おお、おいでですってえ!?

 あたくしはおもむろに椅子から立ち上がり、マッチョな店員さんの前まで参ります。近づくとあたくしの胸の鼓動はどくんどくんとさわがしくなり……。


 ひょいっとこの方はあたくしの身体を持ち上げて、お姫様抱っこしてしまいました。

 は、恥ずかしいですわ。

 ……とてもいい香りがする。


「麗子さんとおっしゃいましたね?」

「ええ」

「俺、雄也ゆうやっていいます。麗子さんってとても美しい上腕二頭筋をしてらっしゃいますね。なにか武道をたしなんでらっしゃるのかな?」


 雄也さんにお姫様抱っこされながら、そのままソファに座って。

 こ、こんなサービス、大丈夫ですの?


「武道は少々。……可愛くありたいのに事情がございまして。……あたくし、がたいががっっちりしてますでしょう? どうもコンプレックスなのです」

「どうして?」

「どうしてって……。あたくし、殿方に守られたいのです。なのに、あたくしより強い方が近くになかなかいなくって……」


 雄也さんは「俺で試してみます?」と言った。


「ど、どのような意味で?」

「俺が貴女に勝ったら付き合ってくれます?」

「あたくし、たぶん負けませんわよ?」

「楽しみです。俺もまあまあ鍛えてきてるんで」


 そんな会話をしていると、彰奈さんがニヤニヤしながらパフェをつついてらっしゃいます。

 横のもう一人の和装イケメンマッチョの店員の方は、うっとりと彰奈さんばかりを見ています。


「彰奈さんみたいに華奢な方のほうがよろしくなくて?」

「俺は麗子さんが好みだけど? パフェ、あーんってしてあげようか?」

「い、いいですわっ! 自分でしょくします」


 慌てて抹茶パフェを食べると、控えめの甘さのなかにほろ苦さを感じます。


「美味しい……。上品なお味ですね」

「ははっ、それは良かった。ここ俺の店なんで、味の感想とか遠慮なくいってください」

「あなたのお店なんですか?」

「ええ、まあ。彰奈とは従兄妹いとこになります。今度、うちの道場で試合をしましょう」

「彰奈さんの従兄妹いとこ?」

「麗子さんのこと、彰奈から色々と聞いてますよ。彰奈が実に楽しそうに話すので貴女にお会いできるのを楽しみにしていました。俺も幼少から護身のために武術の稽古に励んでいます。今度手合わせしませんか?」



 え、え〜っとですわね。

 それからなにかと雄也さんに誘われたり、マッチョの抹茶カフェに遊びに来ております。

 雄也さんは会う度にお姫様抱っこをしてくださいます。


 ああ、このカフェは老若男女がお越しになられるのよ?

 男性も女性も若い方もご老人も、筋肉がお好きでお姫様抱っこされたい方って多いのですね。


 格闘技の試合のほうですが、あたくしと雄也さんの強さの実力は五分五分ですわ。

 試合の前にもお姫様抱っこをされてしまい、嬉しいやら……困ってしまいます。


 なぜか彰奈さんがあたくしが雄也さんのお話をすると、ニヤニヤニヤニヤとお笑いになるのですけれど。

 あたくし、雄也さんのこと、筋肉が素敵だなって思ってるだけですから!


「あらあら、良いのですよ、わたくしに遠慮なされずに惚気のろけても。麗子さんったら、可愛らしいわあ。雄也さんも麗子さんのお話をすると嬉しそうですもの」


 彰奈さんって策士なのかしら?

 もしかしてこうなることを最初から確信されていたのでは?


「麗子さんと雄也さんが並ぶと尊すぎますわ。お二人とも揃ってなんて美しい凛とした筋肉をされているのかとわたくし、目を奪われて見惚れてしまいます。とてもお二人はお似合いですわよ?」


 マッチョな抹茶パフェ、とんでもない筋肉自慢ばかりが集まるお店です。

 男性でも女性でも、若い方もおばあさまもぜひ、お姫様抱っこを体験なさってはいかがかしら?


 わたくし……、今度はわたくしが誰かをお姫様抱っこしてさしあげようかしら?

 コンプレックス?

 なんのことですの? もう克服いたしましたわ。

 こちらの抹茶カフェでバイトなるものをしてみたくなりました。


 今度はこのわたくしが、鍛え抜いた自慢の筋肉で誰かの夢を叶えてさしあげましょうかしら?





               おしまい♪


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マッチョな抹茶カフェ「お姫様抱っこ体験できます💪」 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE

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