妖怪を探しに

碧絃(aoi)

妖怪の姿

 ある日小学校へ行くと、友達が泣きそうな顔をして相談してきた。


「昨日、妖怪を見たんだ」

 友達はうつむいて、ふざけている感じはない。


「ええと、どんな妖怪?」


「大きな目玉だけの妖怪なんだ。手も足もない」


「目玉だけ……」


 想像すると、目玉だけじゃ動けないし、蛇のように筋肉を使って動くとでもいうのだろうか。


「よく分かんないけどさ、妖怪を見た場所に連れて行ってよ」


「えぇ? 行くの?」


「だって、見ないと分からないよ」


「……いいけど、見つかりそうになったら、すぐ逃げるからね」


 僕達は、昨日妖怪が出たという学校の近くの森へ向かった。

 そこは、草木に覆われてしまっているので薄暗い。


 息を殺して静かに進むと、奥の方で何かが光る。


「あ、あれだよ!」

 友達が指差す方を見ると、黄緑色に光る目が見えた。


「早く逃げよう!」

 友達は震えながら僕の服を引っ張る。


 逃げた方がいいのは分かっているが、僕は妖怪をしっかり見てみたかったので、目を凝らした。


 すると、黄緑色の目はどんどん大きくなり、僕の頭より大きくなっていった。


「出ていけ!」地鳴りのような大きな声が響く。


「うわぁ!」


 怖くなった僕達は、一度も後ろを振り向かずに走った。


 そのまま森の外に走り出て振り向くと、森の奥の方には、まだ黄緑色の丸いものが見える。


「ねぇ、早く離れよう」

 友達に手を引かれて、僕達はその場を後にした。




 家へ帰るとじいちゃんに、

「どこに行って来たんだ、お前は」と怪訝な顔をされた。


「森で妖怪を探してたんだ」

 僕が言うとじいちゃんはあぁ、と何か思い浮かんだようで、


「1つ目狸か」と僕を見た。


「えっ? 狸?」

「あぁ、怒ると目が大きくなる狸だ」じいちゃんは事もなげに言う。


 1つ目狸に出会った事もすごいはずだが、なんとなく、夢が風船のように弾けた気がした。


 ———目玉が筋肉だけで動く訳ないか……。


 浮かれていた気持ちは消えて、現実に引き戻された。

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妖怪を探しに 碧絃(aoi) @aoi-neco

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