真夜中の停電

秋嶋七月

真夜中の停電

 深夜近く自室のパソコンで動画を見ていると突然部屋が真っ暗になった。

 モニターも当然暗い。

 手探りでスマホを見つけ、画面の光を頼りにベランダに出れば、この辺りの一角だけが停電していることが分かった。

 すぐ近くの街灯まで消えているのに、筋2本向こう側では煌々と明かりがついたままだ。

 こんな局地的な停電あるんだなぁと思いながら、ベランダで検索をかける。

 停電情報はまだ出ていなかったが電力会社の通報フォームを見つけて情報を入力する。

 送信し終えた時、道にポツポツ、光があるのに気がついた。

 停電に気づいた人々が集まってきたようだ。

 私も部屋着の上に一枚羽織って、行ってみることにした。

「こんばんは〜、いきりなりの停電ですね」

「本当に。早い時間じゃなかっただけよかったけど」

 生まれた時から住んでいるから近所もほぼ顔見知り。

「うちの親は寝てるから停電に気づいてもいませんよ」

「この時間まで起きている人がこれだけいるっていうのが昔だと考えられないよねぇ」

 おばちゃんが笑っていうのに応えるように、アンッと可愛らしい鳴き声が響いた。

 視線を巡らせれば、まだ幼い柴犬がいた。

「俺とこいつは深夜の散歩の常連ですけどね」

 犬から視線を上げれば飼い主である青年が立っていた。

 見知らぬ顔だと思えば、彼は停電外区域に引っ越してきた人らしい。

 飲食店を経営していて、閉店後に散歩するのが日課だそうだ。

「ここの道に入った瞬間、停電したんでびっくりしました」

 それはそうだろうな、と思って笑ってしまった。

「あ」

 そうして十分ほど。はじまりと同じく、唐突に明かりが戻った。

「復帰したみたい」

「俺も散歩も切り上げて帰ります。ではまた」

 皆にこやかに引き上げていく中、青年に経営している店の名前聞いて別れた。

 停電が起きたから会えた深夜に散歩する人とわんこ。

 少しだけ特別な出会いのように思えて楽しかった。

 明日はインターネット上の散歩はやめて、この道をのぞいてみようかなと、思う程度に。

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真夜中の停電 秋嶋七月 @akishima

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