真夜中の遭遇
久世 空気
真夜中の遭遇
暗闇から飛び出してきた男にぶつかり、私は吹っ飛ばされた。真夜中とは言え、足音が近づいているのは聞こえていたから、本当にうかつだった。二人とも転んで尻餅をついてしまった。
先に体を起こしたのは私だった。ほんの数秒差ではあったが、転んで無防備になってしまった男を観察することが出来た。
月光の下、男のシャツがべったりと濡れているのが分かった。足下に刃先の長いナイフが落ちている。
男が私を見た。
そしてナイフも拾わずに走り出した。血の匂いが舞う。ああ、やっぱりあれは血。しかも今流したばかりの、真っ赤な血。
私はナイフを拾って男を追いかけた。公園で男が砂場に足を取られて転んだところで、覆い被さった。
男は泣いている。様子をうかがっていると男は嗚咽を漏らしながら言った。
「化け物・・・・・・俺を殺しに来たんだろ? 人殺しの報いを受けるときが来たって事だろ?」
私は確かに人間とは違う。体は鱗に覆われているし、目は3つある。首は長いし、舌は長くて口に収まっていない。だが
「君には私が神の代理をしているように見えるのか?」
男が目を見開いて振り返った。
「しゃべるのか?」
「そうだ」
彼の上から退き、彼を座らせた。
「君は人殺しなのか?」
私の言葉に、彼は戸惑いながらも頷く。
「ああ、どうしても一ヶ月に一度、こんな真夜中に、人を殺したいという衝動が、押さえられない」
私はそれを聞いて嬉しくなった。
「私も同じだ。一ヶ月に1回、人の肉を食いたくて、山から下りてくる。しかし、こんな姿だが、人を襲うのが怖くてしょうがない。だから結局野良猫やその辺の小動物で誤魔化している」
彼は初めは震えていたが、徐々に私が言いたいことが分かってきたらしい。
「俺が殺した人間を食ってくれるのか?」
「ああ、血の一滴も残さず腹に収めてやる」
それから毎月の夜の散歩が楽しみになった。私たちは最高の友達を手に入れたのだ。
真夜中の遭遇 久世 空気 @kuze-kuuki
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