第102話 総理大臣賞

 世界の戦況が深刻になるにつれ、だんだん生活が厳しくなってくる。

 防衛費が際限なく増加して増税。

 潜水艦や航空母艦護衛艦などの建造が急ピッチで進む。


 小麦や卵だけではなく輸入食品は暴騰、石油や石炭、LNGエネルギー価格も際限なく上がっていく。


 原発の新規建築を進めてはいるが、建設には時間がかかる。


 核融合も実用化が近いがまだまだ莫大な予算を必要とするだろう。


 隣国の中亜との貿易の停止は特に経済に深刻なダメージを与えている。


 国民の生活は明治維新以前の水準にまで逆戻りしてしまった。


 そんな中である9歳の少女に総理大臣賞が授与されるというニュースが日本中を駆け回る。


 そう、薫子である。


 国民生活が苦しくなり不満が溜まり続ける時には敵を作って戦争を始めるか、「勇者」の賞賛をして衆目を逸らす。


 古代から現代に至るまで古今東西やることは同じである。


 今回は光速突破を実現した実験機の開発の中心となった薫子にスポットが当たった。


 その美しい外見と9歳という年齢、もちろん誰も成し遂げることができなかった研究成果も素晴らしいものであり、国威高揚の格好のアイドル偶像にこれ以上ないくらいふさわしいものであった。


 授賞式の日、陽葵に用意してもらったドレスを着て髪を結い、大国の王女を思わせる凛として勲章を受け取る姿に、日本国民は酔った。

 ゼロ・ポイントフィールドから学んだ「魅力」スキルの効果も加わったのかもしれない。

 こうして日本国民の熱狂は最高潮となり、戦時内閣の支持率は70パーセントを超えるまでに上昇した。

 薫子はここで名実ともに「最高に賢いフロイラインお嬢様」と称せられることになったのである。

          了


あとがき。


 賢さ、とは比較であり評価であり数字を伴う実績である。

 周りの環境によりすぐに評価されることもあれば本人が亡くなってから評価されることも少なくない。

 真に賢い人間であっても政治思想に合わない賢さは評価されない。

 これもまた真理である。


 それでも地球は回る。

 改めて賢さの評価について考え直す機会になれば幸いです。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

《書籍化!好評発売中!》ゼロ・ポイントフィールドに愛されたフロイライン 七星剣 蓮 @dai-tremdmaster

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ