第4話 祭
副長は、俺たちを守るように『
「河童の里へ、何しに来たんだーっ!」
副長、まだマイク持って叫んでるぞ。
「勝手に里へ来るなーっ!とっとと帰れーっ!」
『雷獣』は「グオウ」と唸ったが、話が通じているのかわからない。時々全身から帯電しているかのように、火花が散っている。
「話してわかる相手じゃなさそうですね」
俺は、ちょっといいところを見せようという気になっていたのかもしれない。俺の「必殺技」である電撃が、心象世界だけでなく現実世界でも使えることが、実験でわかっていたからだ。
相手は『雷獣』といっても、大型犬位の大きさだ。殺さぬ程度に加減して、俺は右手の平から電撃を放った!
電撃が『雷獣』に直撃した途端、まるでスパークしたかのような大きな火花が散った。『雷獣』は再び「グオウ」と唸るだけで、平然としていた。
「待たれい、
しまった、相手は雷を操る妖怪だった。やつのキャパ以上の電撃でなければ、打ち負かすことなどできはしない。俺にそれだけの電撃が打てるか?いや、屋内でそんな電撃を放ったら、建物ごと炎上してしまう。
『雷獣』の帯電が激しくなった。今度は向こうから攻撃してくるつもりだ!俺は
『雷獣』の体が光り、電撃が放たれた!
バチバチッと、目の前で電撃が何かに当たり、俺たちは直撃を避けることができた。見ると、クロが2つの尻尾を大きく膨らませて電撃を受け止めたのだった。
「クロちゃん!」
桜子がクロに歩み寄る。クロは『雷獣』に向かって「シャアアア!」と唸っている。どうやら無事のようだ。
どうする、俺? このままではやられるぞ?
俺はない知恵を振り絞った。この前の
うつむいた俺の目に、胸ポケットに刺したシャープペンシルが見えた。
これ、使えないか? 俺はそれをイメージしてみた。ほんの1秒位の間の出来事だ。それ以上考えている時間はなかった。
イメージだ。全てはイメージ。俺の超能力の見せ所だ。
おれは胸ポケットからシャープペンシルを取り出すと、おもむろに右手首で「ペン回し」を始めた。学生時代に暇つぶしに覚えた技だ。
イメージは「ブーメラン」。
「ペン回し」の状態から俺は、それを『雷獣』に向かって放り投げた! そしてその瞬間、「刃物」をイメージ。
シャープペンシルは回転しながら『雷獣』の鼻先をかすめた!『雷獣』が鼻から出血し、悲鳴を上げる。
シャープペンシルは、回転しながらブーメランのように俺の右手に戻ってきた。すかさず俺は再び「ペン回し」。そしてもう一度
今度のイメージは「ハンマー」!
ブーメラン・ペンシル(今からそう呼ぼう)は、今度は『雷獣』の左前足に当たった! 鈍い音がして、『雷獣』は咆哮しながら崩れ落ちた。
戻ってきたブーメラン・ペンシルをつかんだ俺は、『雷獣』に語りかけた。
「この勝負は俺の勝ちだ。これ以上の争いは無意味だ。おとなしく帰れよ」
『雷獣』は「クウン」と子犬のように鳴くと、「ジジジジッ」とテレビ画面が縦に歪むような感じで、消えていった。
その途端、会場からは地鳴りのような歓声が響き渡った。
「
再び「うおおお」という歓声が上がる。
議題はどこへ行ったやら、会場は皆の衆が持ち寄ったお菓子や料理が振る舞われ、踊り出す者やら歌い出す者やらで、すっかり祭気分になった。里帰りした河童たちが、色々と買ってきていたらしい。
長老がわざわざ俺のところへ来て、酒をついでくれた。
「今日みたいに里へ妖怪が乱入してくるなんてことが、結構あるんですか?」
俺が尋ねると、長老は首を横に振った。
「妖怪といえども、里の結界を破って侵入できる者など、そうはおらん。あの『雷獣』が自分の力で結界を突破したとはとても思えん。何者かに送り込まれたに相違ない」
「河童に敵対する者がいるってことですか。心当たりはあるんですか?」
「まあ、推測はできるが確証はない。ノーコメントとしておこう」
「ねえ長老」桜子が俺たちの会話に割って入った。「人間界の戸籍なんて取れるものなの?」
「ふほほほ。それこそ政治力というものじゃよ」
これは国会議員レベルでできる話ではないな。一体どこへ根回しするんだろう?
「あっ、クロちゃん、それは飲んじゃダメ!」
見ると、俺が置いた盃にクロが口をつけていた。
「うまいニャ~」
うわっ、酔ってうっかり喋っちまいやがった。お前、いつから喋れたんだ? 俺と桜子の会話も筒抜けだったのか。
まあいいか。今日も助けて貰ったんだし。
俺はクロの頭を撫でた。
(終)
オカルトダイバー 2 河童の里祭 @windrain
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