第3話 敵襲
タブレットPCには、今日「河童の里」に来れなかった者たちの顔が、オンラインミーティングアプリで映し出されていた。それからオブザーバーとして、他の河童の里の長老の顔も。
「ここ、ケータイの電波とかWi-Fiとか、通ってるんですか?」
俺が長老に尋ねると、
「わしゃあ、難しいことは知らんでよ、若いもんに任せちょる。けどなあ、こういうもんは里を出て行ったもんが培った政治力のたまものなんじゃよ」
人間界で政治力を発揮して、ケータイの電波塔なんかを里の近くに建てさせているんだろうか? 政治力といっても、河童が国会議員になれるわけはないから、議員に献金したりして動かしてるのかな?
俺と桜子は、なぜか集会場の一番前の椅子に、住民たちの方に向かって座らされた。クロは桜子が抱いた。どうやら、やっぱり俺たちが主賓扱いらしい。
長老の次に偉いという、副長という役名の河童がマイクを持ってやってきたかと思うと、おもむろに、
「レディース&ジェントルメン!」
などとがなるもんだから、コケそうになった。それもう、ジェンダー社会では死語だし。
「本日の議題を発表します!」
なんかこの男、リングアナウンサー気取りだ。
「ミスター
今度こそ俺は本当にコケた。だが副長は構わず続ける。
「ミスター飛島は人間ですが、先祖に河童がいたので、河童の血を引いています! ミセス桜子は、いずれミスター飛島の子を授かるでしょう! 人間の子を授かる河童の女性は、実に200年ぶりになります! 人間界で子育てするためには、必ず戸籍が必要になるでしょう!」
副長は一気にそこまで言うと、息が続かなくなって一旦休んだ。そして呼吸を整えると、
「皆さん、いかがですかーっ!」
桜子は顔を真っ赤にしてふくれっ面をしていたが、とうとう我慢ならなくなって叫んだ。
「ミセスって、何よーっ!? 私はタッキーと一緒に暮らしてるけど、まだ夫婦じゃないんだよ!?」
『タッキー』言っちゃったよ。それ恥ずかしいから、人前で言うなって言ったのに。
副長は、なんか呆然としていた。それからマイクを持ちかえると、
「情報源は誰ですかーっ!?」
「あたしだよーっ」
応えたのはタブレットPCに映った女性だった。
「もえちゃん!」桜子が叫ぶ。「あんたがチクってたのね!?」
「だって、重大懸案じゃない。桜子のためを思えばこそなんだからね。夫婦じゃないったって、どう見ても内縁の妻じゃない?」
もえちゃんというのは、確か桜子のキャバ嬢仲間だったはずだ。
「勝手なこと言わないでよ!プロポーズだって、まだしてもらってないんだからー!」
うわっ、こっちに飛び火してきた。
「ミスター飛島、どうなんですかーっ!?」
副長が俺にマイクを向けてきた。
「えっと、そのー・・・」俺は観念して言った。「まだ指輪も準備できてないのであれですが、ちゃんとプロポーズはするつもりです・・・」
いや、これもうプロポーズだよね?
桜子は目を見開いて頬を染め、俺に抱きついてきた。
会場内は、うおおおおおーっという歓声と拍手に包まれた。
そのとき突然、会場内に閃光が走り、轟音が轟いた。
祭壇の上にいつの間にか現れたのは、狼にも似た、前足が2本で後ろ足が4本、尻尾が2本の妖怪だった。
あれは・・・『
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