第五話 王都入場①

 ––––やっとアクアレナについた。


 水の都というぐらいに綺麗なものかと思ったが、モンスターに襲われた爪痕が残る。

王都を中心に東西南北の居住区も民と兵士が協力して復旧作業にあたっていた。

数日前に出会ったアレクの言う通りで、僕の想像以上だった。


 それはそうと、僕はアレクの言うように城外にあった地下道から潜入して王国の内部へと入った。


 「農作業で慣れてるから汚れるのはへっちゃらだけど、この剣は目立つんだよな」


 腰に帯刀していた剣は、道中で荷物に入ってた布で細長く編み袋にして隠した。これなら怪しまれないだろう。

 

 「スタト村の人たちはアクアレナにいるのか?」


 スタト村でこの剣を手にしたあの日、僕に話しかけた男の声を聞く限りではアクアレナに来れば協力してくれる人がいるかもしれないと言うが……。


 「それだけじゃあ分かんないよ」


 途方に暮れている。アクアレナの王女様に謁見なんて無理すぎるし、アレクみたいな盗賊に騙されないように気をつけないといけないし。

 

 「ん!? なんだあの集団は?」


 城門が開いたと思えば、兵士を率いる一隊が行進しながら中央の王城を目指していた。ぱっと見で五十人程の兵士がいるけど、エルフだな。

 モンスターに対抗するために人間はモンスター以外の種族と同盟関係にあるけど、それが関係しているのか?


 特に中央を移動する馬車には厳重な警備がついている。エルフを従える偉い人に間違いないな。


 「まさか僕に協力してくれる人がエルフだとか……なんてなー」


 呑気に考えるが僕はこれからやることは決まってない。あの集団に紛れて王城侵入も一手かもしれないな––––。


 ドゴォンッ!

 ドゴォンッ!

 なんだ––––!?


 「敵襲っ! 敵襲っ!」

 「ギガウルフだ!」

 「目視で二十! 戦闘配置につけ!」

 「落ち着いて避難してください!」

 「きゃー! またなの!」

 「ママ! 怖いよー!」

 「マリン王女に報告を! ストラトス騎士団長をすぐに呼べ!」


 平和を取り戻そうとしていたアクアレナは状況が一変した。民は怯えて逃げ惑い、収拾がつかない。

 鎧を纏う兵士達が城門へと集結する。混乱に気がついたエルフ達と結託して迎撃体制をとる。


 ドゴォン!


 ついに城門は破壊され、外からギガウルフが侵入してきた。対する現場にいた兵士達は百を超えるが、剣で斬り裂いても槍を刺しても分厚い皮膚で上手く攻撃が効かない。

 瞬く間にギガウルフ達のペースで戦いは進んだ。爪で切り裂かれ、頭を噛み砕かれる兵士達。……僕は、見てられない!


 「アレクが剣聖ニフロイだとか言ってたけど、そんなの知らない! 目の前で傷ついている人がいたら、助けないと!」


 剣を鞘から抜刀した僕は風を纏いながら剣を振り下ろし斬撃を飛ばした。大地を抉りながら一直線に突き進み、三匹のギガウルフを真っ二つにした。


 「ギャアッ!?」

 「くらえっ!」


 僕は斬撃を飛ばしたと同時にギガウルフ達の元へ駆ける。兵士達の剣では斬り裂けない分厚い皮膚をこんにゃくのように斬り進んだ。


 「グア!」

 「オギャ!」

 「ギギ!」

 「ブゥ!」


 あと十三匹! 僕の存在に気がついたギガウルフ達は標的を僕に変えている。


 「怪我した人を安全なところへ! 早く!」

 「は、はい! あなたは!?」

 「いいから! 早く!」


 説明している時間はない。迫り来るギガウルフ達への警戒を怠れず、さらに向かってくる。


 「ゲア!」

 「シュー!」

 「どうだ!」

 「ガア!」


 あと十匹! でもこの時点で僕はギガウルフに包囲されている。

 一斉に飛びかかってくるギガウルフを目にした僕は剣を地面で平行になるように刃を立てて、刀身に風を纏わせる。


 剣術なんて習ったことはないけど、村出身の農民の根性を舐めるなよ!

 自分の体を一回転させて風を纏った剣を全方向に薙ぎ払った。

 迫り来るギガウルフを一気に斬り裂き、自分を中心に暴風を発生させギガウルフを斬撃とともに上空へと舞い上げる。


 「「「「「「「「「グアアッ!!!!!!!!!」」」」」」」」」


 綺麗な王都を血や肉片で汚してしまってごめんなさい。ギガウルフの手足、頭、がボタボタ雨のごとく大地に落ち、残すは一匹となった。


 「グルルルゥ!」

 

 今まで倒したギガウルフより一回り大きい。この集団のボスか。

 

 「グアアアッ!」


 威嚇の圧力が凄い! 台風のように吹き飛ばされそうだ!

 でも僕は負けるわけにはいかない。スタト村で離れ離れになった叔父さん叔母さんと再会するんだ。


 全速力で駆け、ギガウルフを斬る! 外した! 敵は緩急を使うのか。

 一度後ろへ下がったかと思えば、ギガウルフは再び前に出て僕を爪で切り裂きに腕を振り回す。


 「あぶな!」


 あんな爪をまともに受けたら即死だ。胴体両断だよ。

 僕は咄嗟に剣で防いだが、次の攻撃を恐れて距離をとった。


 だけど、ギガウルフはすぐに距離を詰めてくる。あの爪は厄介だ。

 

 「だったら……」


 勝負は一瞬!

 あの大きなモーションは逆に分かりやすい!

 右腕で大きく振り回すのなら、そこを狙えばいい!


 振り回された右腕が当たる寸前で僕は前へ出ながら右腕を斬り落とした。


 「ガアッ!」

 「はぁ……はぁ……最後だ!」


 斬り落としたと同時にギガウルフに向けて跳躍! 僕は剣を真横に薙ぎギガウルフの首を両断した。


 ギガウルフの二箇所の切断面から血飛沫が飛んだ。

 僕はギガウルフの硬い皮膚に当たり弾かれ地面に叩きつけられた。戦いに勝利したと同時に、極度の疲労から気を失ってしまった。

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唯一無二の剣聖列伝〜いずれ最強に至る元農民の物語〜 名浪福斗 @bob224

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