彼女の惚気話(KAC20234)
都鳥
彼女の惚気話
ふらふら深夜の散歩に繰り出した。夜の闇に紛れて、屋根から屋根を軽やかに渡る。肌を冷やす夜風がとても気持ちいい。
吸血鬼の私にとっては、夜がいつもの活動時間だ。別に特別な時間じゃあない。でもあの日はちょっとだけ「いつも」と違った。
ふと街中に
喧騒の主に気付かれぬよう、夜風が揺らす
* * *
「まさに理想のヒトがそこに居たのよ~~」
彼女は薔薇色に染まった頬に手を当てると、うっとりとした声でそう
その話を聞いた彼女の友人たち――皆、吸血鬼なんだそうだ――は、きゃーーと黄色い声を上げる。
そのまま何かを期待するように俺の方を見るんもんだから、どんな顔をしていいかわからない。
吸血鬼である彼女に告白をし、恋人同士になって、先日から一緒に住む事になった。
その俺たちの新居に、彼女が友人を招きたいというので快く
彼女たちのグラスに注がれている赤い液体は血液ではない。俺たちが普段飲むのと同じ赤ワインだ。
酒のせいで気分が良くなっているのか、話はさらに盛り上がっている。
俺が誤解しながらも彼女を倒そうとしていた話のはずが、何故か運命が二人を引き裂こうとするのを二人の愛の力でどうとか……
いや、やめてくれ…… さすがに恥ずかしいぞ……
酔ったので夜風に当たりたいと言い訳をして、バルコニーに逃げた。
大きく息を吸うと少し冷たい、でも爽やかな夜の空気が胸を内から冷ましてくれる。
こっそりと振り返って、まだ話に盛り上がっている彼女を盗み見した。
やっぱり、可愛い。
戦っているあの時の姿も美しかったけれど、今こうして笑っている彼女はずっと可愛くて魅力的だ。
彼女を笑顔にすることができてよかったと、改めてそう思った。
彼女の惚気話(KAC20234) 都鳥 @Miyakodori
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