こんな警察官は嫌だ

薮坂

コント「深夜の散歩」


「いやー、たまには深夜の散歩してみるもんだなぁ。春の夜って本当に気持ちがいい。夜桜見ながらチャリでの散歩、これマジ贅沢だよなぁ。春の香りがするよ。人も少ないし、こりゃ新しい趣味になりそうだなぁ。……ってあれ? 向こうから誰か来る。あの格好、お巡りさんか?」


「どうもどうもこんばんは。警察です。お兄さん、ちょっと奇異ですか?」


「いきなり変人扱い! 言うなら『ちょっといいですか』だろ。お巡りさん、何の用っすか?」


「いや、最近このあたり事件多くて雑草だからね。注意喚起として声掛けしてるんですよ」


「いや言うなら物騒だろ? なんだよ雑草て。文字通り草生えるわ」


「お兄さん、もしかして乱歩中ですか? 本を読みながらの自転車運転は危ないですよ」


「いやいや乱歩中ってなによ! 散歩だよ散歩、チャリに乗って夜の散歩! それに乱歩って俺、本も持ってねーよお巡りさん。見りゃわかんだろ? つーかさっきから言い間違え酷いな!」


「いやぁゴメンね。その格好、てっきりミステリの犯人コスかと思っちゃってさ」


「いやどこがよ! 別に黒づくめでもなんでもねーだろ。帽子もかぶってねーっての」


「かぶってない? 本当に? 何も? 特殊な帽子とか、かぶってない? 毛が生えてるように見えるヤツとかさ」


「カツラだって言いたいのかあんた! かぶってねーよ、これは頭から直に生えてるもんだよ!」


「まぁまぁ落ち着いてお兄さん。でもさ、でもさ……。犯人はみんなそう言うんだよなァ‼︎」


「急に豹変して怖ぇな! いや何の犯人よ! 何の罪を犯した犯人が『頭から直に生えてる』とか言うのよ! 逆に興味あるわ!」


「……しらばっくれやがって。この毛ったくり犯がよォ!」


「毛ったくり⁉︎ いや何それ全然上手くないし、どうツッコんでいいかわかんねーよ!」


「被害者の残り少ない頭髪をむしり取る残忍な手口。悪質極まりないよなァ。それがこの時間帯、この近辺で多発してんだよ! 犯人はお前だな? 抜き取りジャック!」


「すげーあだ名付けられてんなその犯人! 安易すぎるし上手くもねーよ! いやいや俺関係ねーっての! 髪にも困ってねーしまだ若いわ! 学生だぞ! それに他人の髪の毛盗んでも自分のにできねーだろ!」


「……お兄さん、羅生門って知ってる?」


「芥川の? あぁ死体の髪の毛抜いてカツラに、ってヤツか」


「死体⁉︎ お前今なんつった⁉︎ 自供か⁉︎」


「いや言わせたんだろあんたが! もう意味わかんねーよ、俺行くからな!」


「待ってマジ無理なんだけど聞いて」


「何だよそのSNSのしょーもねー書き出しみたいなノリは! 思わず止まっちまったじゃねーかよ!」


「とりあえずさ、所持品検査したいからさ。お兄さん、両手を上げてプチョヘンザしてくれない?」


「次はクラブのノリかよ! 何なんだよあんた! いや無理無理、俺はクラブのノリとか嫌いなんだよ! あんなとこリア充の巣窟じゃねーか!」


「じゃあ両手を上げて背伸びの運動でもいいからさ」


「ラジオ体操⁉︎ それなら出来るけどなんか嫌だ!」


「おっと拒否ィ? もしかして、何かおめでたいことでもあるのかなァ?」


「後ろめたいだろそれ言うなら! あんたさっきからむちゃくちゃだな! ホントにお巡りかよ!」


「誰が小回りの効く人間だ!」


「言ってねーよ1ミリも!」


「まぁいいや、とりあえず所持品検査させてよ。それで何もなかったら終わりだからさ。な? 別に危ないモン持ってないんだろ?」


「持ってねーよ! もう好きにしろよ、それ終わったら帰れるんだよな⁉︎」


「もろちんだ」


「その言い間違えはない! ぶっちぎり、今までで一番酷いわ!」


「あ、もちろんだ。警察官に無言はない」


「そこも二言だろ、つーかマジ無言でいろよあんた! 言い間違えが酷いんだよさっきから! ほらよカバンだろ? 別に危ないモンなんて入ってねーから、見ろよ早く!」


「……おいコレはなんだ! カバンから白い錠剤が大量に出てきたぞ! 薬物だろこれ!」


「フリスグだよそれ! ケースに『フリスグ』って書いてあるだろ! 食ったことねーのかよ!」


「HDMIじゃないの?」


「言うならMDMAだろ!  HDMIはケーブルだよ、ケーブル!」


「……じゃあコレはなんだ⁉︎ 『ヤク』って書いたモノが出てきたぞ! 今度こそ薬物だろ!」


「ヤクルド1000って書いてあんだろ! 乳酸菌飲料だよ! それ飲んだら熟睡できるってもっぱらのウワサだよ!」


「なんだよ、もどかしやがって」


「言い間違えしかできないの? いやほんと、ある意味すげぇ能力だな!」


「わかったよ、所持品に怪しい物はない。それは認めてやるよ。で、今日は一日なにしてたのよ? こんな時間に出歩くとか普通じゃないぞ?」


「所持品検査終わったら帰してくれるんじゃねーのかよ。ちっ、めんどくせぇなぁ。今日は大学行って、友達と昼メシ食って、そのあと学費稼ぐためにバイトしてたんだ。文句あんの?」


「地学生?」


「苦学生だろ、言うなら! でもちょっと惜しいな、俺は理学生だよ」


「へぇ、人は見た目によらないなぁ!」


「うるせぇよ失礼だな! 見た目で人を判断すんじゃねーよ!」


「ところでさ、昼メシは何食ったのよ?」


「金もないし安い寿司屋ランチだよ。マグロの炙りが美味かったな」


「……アブリ⁉︎ おいおい待て待て、じゃあお前、どこでバイトしてんだ⁉︎」


「しゃぶしゃぶ食べ放題の店だよ」


「シャブホーダイ⁉︎ お前やっぱり、理学に精通したヤクの売人かァ⁉︎」


「そんなワケねーだろ! シャブ屋じゃねーよ、しゃぶしゃぶ屋だよ! もういいだろ、マジ帰してよ。楽しかった深夜の散歩が台無しだよ、あんたのせいでな!」


「……怪しいけど証拠がねぇな。仕方ない、もう帰っていいぞ。あとこれ以上、紛らわしい顔するなよ。この顔見たら110番にしか見えないからな」


「顔⁉︎ 変えられねーよアホか! そう言うとこだよ、警察官が嫌われるのって。いつも上から目線だろ? 悪い犯人にはそうしてほしいけど、一般市民には優しく接しろよ。じゃあ俺、行くからな!」


「あぁ気をつけて。それじゃ、プッシャでな」


「達者だろそこは! プッシャてそれこそヤクの売人みてーになってんだよ! ほんと言い間違えが酷いなあんた! それでもお巡りかよ‼︎」


「誰がヒマワリみたいに元気いっぱいだ! 言っていいことと悪いことがあるんだぞ!」


「わかった、もうあんた絶対クスリ決めてんだろ! マジで世も末だよ!」






【終】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こんな警察官は嫌だ 薮坂 @yabusaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ