第22話*最終話 師せる孔明先生、生ける屍(わたし)を甦らす

 三国志が好きだから、中国へ行きたいからという理由だけで、修学旅行先が中国の高校を受験、入学し、どっぷり三国志に浸りたいからという理由だけで中国への留学を決意。

 こんな風に何事も白か黒か、ゼロか百かで決断し、思い立ったが吉日思考の私が唯一、断言出来ず解らない想いがあった。


 それは、やたら惹かれる人生の師・諸葛孔明先生の魅力だった。


 どこが好きなのか、なぜこんなにも好きなのか。

 他の英雄達に対しては、待ってましたとばかりに必要以上に熱くその魅力を語れたが、孔明先生に関してだけは、冷静に、客観的に考えようとすればするほど、心臓が鷲掴わしづかみにされ、魂が言語感覚を超えて、宇宙空間に投げ飛ばされるような、そんな感覚に襲われた。


 だが、この答えの出ない孔明先生への想いこそが中国への留学を決定づけた最大の動機と言っても過言ではないだろう。


 中学一年の二者面談で本当に大事な、心の底にある本音は、滅多なことで口外するものではないと、夢と引き換えに一生消えない傷として刻まれた教訓。

 その甲斐あって留学の動機を聞かれた私は、これからは中国語が出来た方がいいとか、なんとか。いかにもそれらしい、大人が納得してくれる理由をニュースから引用して、命と情熱の源泉を護った。


 そんな私の嘘偽りのない本音は、孔明先生にここまで惹かれる理由が知りたい! もっともっと、孔明先生を知りたい、お近づきになりたい! という実に単純で純粋なものだった。


「蜀の地を足がかりに、天下を三分しー」

 孔明先生が天下三分の計を実現するに当たって拠点とした天府てんぷの国は、私にとっての聖地だった。

 だからこそ、憧れの聖地へ行って夢破れ山河さえなかったらどうしよう、と懸念にも似た恐怖感も湧き上がったが、人生一度きり。


 回りくどいことは抜きにして、三国志の聖地、本丸に勝負を挑むことにした私は高校の卒業式から半年後の1997年9月。

蜀の都である四川省成都市に孔明先生を追い求めた。


 孔明先生がくれた情熱だけを武器に。


 これぞまさに「師せる孔明先生、活けるわたしを甦らす」である。

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【全22話】師せる孔明先生、生ける屍(わたし)を甦らす 玄子(げんし) @zhugechengxiang

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