第6話 美沙の過去

 美沙が目を覚ました時、そこは母体の中。もう一度この世に生を受けた時には、男として生まれた。前世の記憶が残っている事に混乱して、しばらく状況の把握が出来なかった。

 この身体の本来の持ち主は光輝で、彼はこの不思議な状況にも果敢に対応しようと努めてくれていた。意外に器が大きいのだと思う。

 子供の成長に合わせて、心と身体を鍛える事にした。いかなる状況にも対処出来る冷静さと困難を回避する頭の回転が今後のキモとなるだろうとの判断である。

 青蘭学園の初等部ともなると、PCを使って情報収集も簡単に出来るようになった。

 美沙の記憶では、18才で事故に遭って死んだ。だがそれはどうにも納得のいかないものであった。人間が死んで転生するにしても、まだ30年しか経っていないのがおかしな話だ。

 良くある異世界転生ならまだしも、余程この世に未練があったはずなのだ。死んでも死にきれない強い未練があったのだと思う。

 そこで落ち着いて事故の時の記憶を探ってみた。すると交差点で誰かに背中を突き飛ばされてトラックに撥ねられたのだ。確実に殺されたのだと思う。こんな可愛い女子高生を殺すなんてただ事じゃない。殺される程恨まれた覚えもない。これは事件の真相を探ってみる価値があるだろう。まだ30年しか経っていないなら事故について調べる事は可能だろう。

 光輝の友達の原純也がPCを駆使して調べてくれた。それによると美沙の母親は『白石さくら』22才で子供を産んで25才で亡くなっている。しかもその死因は横断歩道を通行中に居眠り運転をしたトラックによる巻き添え事故だ。

 どうにもきな臭い事件であり、偶然と片付けるには無理がある。

 白石さくらは私生児を産んでいる。それが美沙だ。交通事故の後、母の姉夫婦が子供を引き取って育ててくれた。美沙は中学生まで両親は実の親だと思っていた。それが高校受験で戸籍を取り寄せて『神城学と桃子』が育ての親だと知ったのだ。何不自由なく育ててくれた事に感謝している。しかし相次ぐ不審な事故が身内を奪う不幸を乗り越えて元気に生きているだろうか?この優しい二人には魔の手が忍びよる事だけは全力で阻止したい。

 事件の手がかりは『さくらが産んだ子供の父親は誰か?』この真相を探る事ではないだろうか。

 母親のさくらが20才で六本木のガールズバーの上客と親しくなって子供を身籠った可能性が高い。その当時のSNSにさくらの交友関係が頻繁にアップされている。芸能事務所からの引き抜きもあったようだ。

『引き続き純也には白石さくらの身辺調査とその頃六本木で勢力を持っていた不動産屋や地上げ屋なんかが分かれば少し手がかりが見えてくると思うんだ。秀樹の方で警察情報が手に入ると良いんだけどねぇ』と光輝が頼んだ。

『僕は白石家の戸籍を調べてみるよ』

さて神城美沙を養女にした神城桃子はさくらの3つ上の姉である。その両親は白石文也で医者、婿養子。白石華子が白石総合病院の院長白石重信の娘だった。現在は長男が病院を継いでいる。そんな家に育って母さくらはなぜ家を飛び出したのか?

 母の性格は分からないが、きっと名家と言われる堅苦しい重圧より華やかで楽しそうな世界に憧れて六本木と言う不夜城に足を踏み入れたのかも知れない。

 そこでどんな落とし穴に落ちてしまったのか?母の無念は私が晴らしてみせる!と握り拳で心に誓う美沙であった。

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サイレント・ムーン @buru-doragonn

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