第5話 友達の存在

 原純也は、そこそこ大きな寺の次男坊に生まれた。お兄さんが優秀で親の期待を一身に背負ってくれるお陰で、寺を継ぐ事を考える必要がなかった。自分の好きなように生きられる事が嬉しい反面、兄に全てを任せている事を心苦しいとも感じていた。

『お前はやりたいように生きて良いんだぞ』と優しく頭をポンポンする兄宣弘に言われる度に(お兄ちゃんは、僕を恨んでないのか)と考えてしまう子供だった。

 何故か他の子供より大人びた考え方をするせいで、なかなか友達が作れなかった。自然に一人でパソコンと遊ぶのが日常になっていた。あまりに引き篭もり街道真っしぐらの純也を心配して、両親は心身共に鍛えられる合気道を勧めて通わせていた。

 合気道の道場で谷村光輝に出会った時、一目で同類だと思った。珍しく自分から声を掛けて

『僕は原純也。君の名前は?』

『あぁ、僕は谷村光輝。よろしくね』と一瞬びっくりして、すぐに照れながら答えてきた。

 それから自然に仲良くなって、合気道の道場に二人で稽古に行っている。頭でっかちに物事を考えがちだった純也と柔軟に対応する光輝のコンビはお互いを高め合う最高のパートナーだと言えそうだ。

 家に引き篭もってパソコンばかりしていた純也が外に出て初めて友と認めた男。

 親に勧められた道場だったが、光輝と会って一緒に切磋琢磨するのは楽しい。確かに身体を動かす事は、頭を使う時にも有効だ。

 巷で有名な青蘭学園の初等部で同じクラスに谷村光輝の名前を発見した時は嬉しかった。更に、幼稚園の時から明るく陽気で騒がしいが人気者の影山秀樹の存在。まぁ幼稚園では、光輝とつるんでいたからあまり接点がないのだ。その秀樹から声を掛けられて、まさかこいつも同じクラスになるとはと驚いた。

 正義感の強い秀樹(さすがは警察官の息子)はイジメにあっていた女子、伊藤あやかを放っておけずに手を差し伸べた。その行為自体は尊重したいところだが、突然巻き込んで来るのは困ったものだ。こいつとの腐れ縁はこの頃から始まっているのだ。

 

 

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