回る幽霊

尾八原ジュージ

くるくる

 夜、幽霊は白く光って見える。


 小学生のとき、同級生のりおちゃんが自宅の階段から落ち、打ちどころが悪くてそのまま亡くなった。

 バレエの発表会が近かったせいか、りおちゃんは回る幽霊になった。すらりと立って足をピンと伸ばし、オルゴールの人形みたいにくるくる回る姿が窓から見えた。

 りおちゃんの家族はどこかに引っ越し、家があった場所は駐車場になった。それでもりおちゃんはくるくる回っていた。彼女がいるスペースはなぜかいつも空いていて、回る姿がよく見える。

 私が大人になって就職し、結婚して実家の近くに家を建て、子どもが産まれてからも、その土地は駐車場のまま、そしてりおちゃんはまだくるくる回っていた。


 りおちゃんのことも、幽霊が近所の駐車場でくるくる回ってることも知らない夫は、産まれたばかりの娘に「りこ」と、偶然似た名前をつけた。

 りこは寝付きが悪くて、夜中によくぐずぐずと泣く。家の中であやしていると気が滅入るし、翌日仕事にいかなければならない夫が起きてしまう。

 私は抱っこ紐をつけて散歩に出かける。

 夜の街はしんと静まり返っている。私は煌々と明るいコンビニの前を通り過ぎ、ひとつ信号を渡って、例の駐車場に向かう。

 そこではりおちゃんがくるくる回っている。長い髪をシニョンにまとめ、普段着のワンピースで、私が子供の頃から全然変わらない姿で、白く発光しながら回り続けている。

 りこはいつの間にか泣き止んで、りおちゃんの踊りを眺めている。そのうち幽霊をメリーの代わりにしながら、りこはすやすやと眠ってしまう。私はそっと家に帰る。

 そうやって夜泣きをやり過ごしていたことを、たぶんだれも知らない。

 今はもうりこは小学生で、寝付きもよく、そんな深夜の散歩はしなくていい。

 でも私はたまに深夜、ひとりでそっと家を出る。りおちゃんはまだひとりでくるくる回っているけれど、最近やっと少し薄くなった。

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回る幽霊 尾八原ジュージ @zi-yon

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