ねこたぬき夜話

牧瀬実那

ハマグリになったすずめが蜃気楼を吐いてんだ

 おい!

 おいおい平八! ちょっくら聞いちゃァくれねぇか?

 

 やっぱりネコってのは町中で生きてるヤツのことで、山で生きてるヤツァたぬきなんだな!

 は? 藪から棒になんだって? 信じられない? 順を追って説明しろ?

 そう焦りなさんナ。

 顔がお店で勘定が合わない番頭さんみてェにキュッてなってるぜ。

 どうしたらそんな顔にあるモンをぜぇんぶ鼻に寄せるような顔ができるのかねェ。

 

 おれァ見ちまったんだよ。

 

 あれァ昨日の夜更け、練り物売りの甚太んとこからの帰り道。

 かなり呑んじまったから酔い覚ましにちぃっとばかり墨田川のほとりをぶらぶら歩いたのヨ。

 近頃は夜中に誰も居ねぇのに小豆を洗う音がするだとか、女の泣く声が聞こえるだとか色々聞くけどよ。

 昨日はお月さんがめでてぇくらいに丸っこくて明るいもんだから、「これァ今日は変なモンも出るこたァあるめぇ!」って思ってな。

 実際穏やかなモンで、ときどき吹く風が冷たくて、酒で火照った顔にゃ気持ちよくて極楽みてぇだったサ。

 

 んで歩いてたら、繁みがガサゴソしてヨ。

 あれという間にたぬきが一匹ちょろちょろっと走って出てきたんだワ。

 手毬みてぇにちいせぇからよ、子供だなァ、春に生まれたんだなァ、なんてほんわかしちまったよ。

 そしたら次々に子だぬきが出てくるもんで、ははぁこれァ母親が連れて歩いてるんだナって気が付いたんだ。

 案の定、子だぬきに続いて母親らしいヤツが出てきたんだが、なんとそいつ、全身真っ白だったんだよ!

 たぬきってのは、茶色い体に落書きみてェなふざけた黒い柄だろ? 白い奴なんか聞いたこたァねぇ!

 顔つきもたぬきたァ似ても似つかねぇ。

 

 あれァネコの顔つきだった……つまりネコがたぬきを育ててるってコトよ!

 ネコは薄情だから自分が産んだ子じゃなきゃ育てねぇ。

 ってこたァネコとたぬきが血の繋がってる。そうなるわけよ!

 

 おめぇさんもそう思うだろ?

 今度確かめに行こうぜェ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ねこたぬき夜話 牧瀬実那 @sorazono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ