真夜中の図書館

みちのあかり

無理・・・

 学生の頃、作家になりたかった。


 そんな夢は今の会社に入ってからは忘れ去ってしまった。残業。クレーム処理。意味のない叱責。心は削られ、夢どころか趣味なんて忘れ去っていた。


 ある日、会社の不正がばれて、3日間の営業停止になった。3日間休みだ。いっそのこと潰れてしまえばいいのに。


 初日は1日中寝た。

 2日目。読書をしたくなり、パソコンで小説サイトを開いた。久しぶりに見ると、ランキング上位には[@書籍化〕とか[@2巻発売中〕とかが、名前の後についているのが沢山あった。


 俺はそれらを中心に読んでいった。


 なんだこれは? こんなのでいいのか? これだったら俺でも書けるぞ。いや、俺の方が……。


 会社変わればかけるのかな? しかし、こんな程度か。馬鹿馬鹿しいな、今の出版業界は!


 気がつくともう23時を超えている。しょうがない。腹も減って来たし、散歩しながらファミレスにでも行くか。


 コンビニもない住宅街。切れそうな街灯が点滅している。冷たい風に吹かれながら、独りとぼとぼと、うす暗い道を歩いて行った。



 なぜだろう。かなり歩いているのだが、ファミレスの明かりすら見えない。気がつくと街灯もない道を歩いている。いつの間にか目の前には小さな図書館があった。


「あなたも投稿サイトやラノベを読んで、自分も作家になれると思ったのですか?」


 司書らしき人が出てきて、俺に聞いた。


「あなたのような方を支援するのがこの図書館の存在意義。どうです? 作家への夢を追いかけてみませんか? ここにいる間は、食べるものには苦労しませんよ。書く以外何もしなくていいのです。資料もいくらでもあります。どうですか? ネット小説でランキング1位になって、書籍化を目指しませんか?」


 導かれるように中へ入ると、大勢の人がパソコンに向かってカタカタとキーボードを叩いている。


「みなさま、小説家を目指す方々です。そのような方々をここで支援しているのです。未来の成功者のためにね」


 その時、1人の女性が立ちあがって叫んだ。


「やった! 書籍化のオファーが来た! これでやっと寝られる」

「おめでとうございます、コルリンコ様。書籍化決定ですね。ですが、内定です。SNSで炎上などゆめゆめなさいませんように」

「分ってる。これで帰れる。いい?」

「はい。お疲れさまでした。自宅までお送りしましょう」


 司書がベルを振る。


「コルリンコ先生をお送りするように」


 奥から1人の女性が現れコルリンコさんを送っていった。


「どうです? あなたも挑戦してみませんか?」


 目の前で作家が誕生したのを見て、やらない訳にはいかなかった。あのくらいの小説なら、すぐに書ける。一も二もなくやらせてくれと頼んだ。


「それでは、総合ランキング1位か書籍化まで頑張ってください。食事は1日3食、おやつは1食です」


 そう言って、パソコンのある机を指差した。



 無理だ。舐めていた。いつまでもあがらないPV。ランキングどころか読んでもらえない。


 アイデアは底を尽き、何を書いても手ごたえがない。


「帰りたい」


 俺がそういうと、司書は言った。


「ここは小説の神が作った世界。『こんなもの俺でも書ける』という舐めた者、『ランキングなんか不正だ』『相互だ!』という者たちに現実を見せる煉獄。相互というなら、ここの者で組んでみたらいかがですか? ちなみに垢バンされたら本当の地獄に落ちます。コルリンコ先生のように書籍化されれば出られますので、それまで頑張ってください」


 コルリンコ先生? ああ、最初に来た時書籍化して出て行ったヤツか。

 ランキング1位? 書籍化作家で成功しているのか。


 おれは10話目まで読んだ。


「これくらいなら俺でも書ける!」


 そんな感じの小説だった。何が違うんだ? 俺の作品と。


「その程度の読み込みしかできないから、いつまでたってもランキングが上がらないのですよ」


 司書は冷たく俺に言い放った。


               【バッドエンド】





 

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