第2話 特殊な花屋

 シリアとタリアを両腕で撫でながらアルガは考えごとをしていた。自分は人より知識や魔法の手数は多いという自信がある。しかし、こんなにも無様に負けてしまった。最初からライトで相手をひるませて、逃げればよかったのにいざとなったらこんなにも頭が回らなくなるとは、そう思ってアルガは自身の思い上がりを恥じていた。


(そりゃ、最強とか無双とか考えてなかったけどさ。ここまで無様にやられるとは思わなかったよ)


<ご主人様、戦闘経験がまだないから仕方ありませんよ>


<こればかりはタリアの言う通りです!>


「ねぇ、俺、これからどうすればいいのかな?」


アルガは今、非常に不安定な状態だった。金銭的に、働くも働かないも選べるし、学生にだってなれる。長寿ではあるが、調べれば身元確認だってできるのでそれなりの所だって所属できるのだ。選べる道も時間もたくさんある。


<また街を見て回りましょうか?>


シリアの提案に結局はそれしかないだろうなと考えたアルガは勢いをつけて起き上がる。屋根から下りて今度は裏道に入らず、街中を歩き回る。そこでふと、目に入ったのは仕事募集の掲示板だ。この街中の掲示板は、主に人手募集をしているらしい。その中でも目をひいたのは「特殊花屋」の文字。


「特殊花屋…」


<ご主人様、それが気になるのですか?>


掲示板に貼り付けてある募集用紙には、仕事内容と店場所が記載されてあった。


(危険地帯指定されてるような場所でしか咲かない植物や探すのが困難な植物専門の花屋です。調達要員を募集しています。条件は最低、800㎞を30分以内で移動できる交通手段が常に確保できる。どんなに離れていても連絡がとれる手段がある。それなりの植物知識、または精通している者と常に行動できる。魔法契約が結べる)


心の中で条件を読み上げる。


<俺、ここに応募しようかな>


<これなら色旅ができますね!ご主人様の竜種姿も見れるかもしれないですし!>


<これなら知識も生かしやすかと>


毎週、水の日はアポなし面談可能と記載してあったので早速店に向かう。見た目は高級品店で上品な雰囲気だ。若干、自分の服装に不安を覚えたアルガは少し手でもう一度汚れを払い、店に入った。流石に暴れないとはいえ、犬の姿をしたシリアたちを店内に連れて行くのは非常識だと思い、2匹は目立たないくらい店と距離を空けた外で待ってもらった。


「いらっしゃいませ」


黒い髪を後頭部で一つ結びにした女性とその女性とよく似た顔立ちの黒髪の男性が挨拶をしてきた。2人とも20代前後に見える。


「あの、調達要員募集の貼り紙を見てきました」


「かしこまりました。ご案内します」


男性が手で促すと同時に女性は、一歩後ろに下がり道を開けた。店にはほとんど花がなく、恐らく店の中に置くのが難しい特殊の花を特別な環境で置く高級品店でも更にワンランク上の店だということがうかがえる。


廊下まで上品で上質な材質を使用していることから、店の奥で店員以外の人と話すことが頻繫にあるのだろうとアルガは予想していた。正直、珍しさから首を動かして細部までよく見たいが、その衝動を必死に抑えて前を見る。


「オーナーに話を通してきますのでしばし、お待ち下さい」


「お待たせいたしました。どうぞ、お入りください」


1分も経たずに男性が部屋から出てきて、そのまま部屋に案内される。入室したアルガを出迎えたのは紳士服に身を包んだ40代くらいでこげ茶色の髪はオールバックに、女性が放っておかないだろうと思うような美丈夫だった。


「どうぞ、おすわりください」


促されたので失礼しますと言って柔らかい赤いソファーに座る。向かいに座ったオーナーは優雅な笑みを浮かべている。


「はじめまして、当店のオーナーのベルディアン=セベルブス=ラビュエルでございます。調達要員を希望ということで間違いないでしょうか」


「はい、私はアルガ=ドーピッシュと申します。私は魔獣2匹を使役しています。連絡用の魔法も3種類以上使えます。植物の知識、鑑定魔法もあります。契約も可能です」


「条件は確認しておられるようですね。今日はとりあえず魔法契約だけ結びましょう」


あっさり採用されたことに驚いて少し動揺する。


「よろしいのですか?」


「はい、条件は満たしていても実際に依頼をしていただかないとどちらにしろ判断しづらいので。エメレ」


「はい」


ベルディアンの背後の扉から先ほどの女性が銀のトレーに魔法契約用紙と高級そうなペンを載せて入ってきた。そのままアルガの横に跪いてトレーを差し出す。


「では、今一度条件とその他の要項を確認してサインをしてください」


 魔法契約は普通の契約書に魔法を埋め込んだものだ。普通の契約書だと契約事項を破った場合、露見しない限りは罰は下らない。だが、魔法契約の場合、紙に埋め込んだ魔法が反応する。魔法は契約主と相手、この場合契約主はベルディアンで相手はアルガ、の違反行為に反応する。契約主が違反行為をしたら埋め込まれた魔法陣が赤く、相手の場合は紫色に発光する。紙だけでなく相手がすぐそれに気づけるように手の甲にも浮かび上がる。複数の人と契約している場合、違反者の名前も浮かび上がる。手の甲の魔法陣は秘密保持のため、契約書で閲覧許可者の欄に名前が記載されてる人のみ見れる。魔法契約書は高価であるため、高級品店かよほど破られたくない契約の時以外は使用しない。これは300年前から変わってなくアルガも安心した。募集用紙の条件以外に顧客や依頼に関しての秘密保持などを読んで問題ないことを確認したアルガはサインをした。


「はい、ありがとうございます。では明日の14時にもう一度こちらへ来てください。最初の依頼をご案内いたします」


「わかりました」


「それとこちらのお店でこの手紙をお渡し下さい。当店の制服を作るため採寸をしてもらっています」


「わかりました」


エメレに契約の腕輪を先ほどのように銀のトレーで持って来てもらった後、装着して問題ないことを確認した。面談後、男性に再び案内されそのまま店の外まで見送られながら店を去った。シリアたちを迎えにいってとりあえず試しで契約を結んだことを告げると2匹は尻尾を振って喜んだ。









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過保護な獣魔2匹に守られて300年引きこもってた俺は最弱 黒薔薇王子 @kurobaranotutaga

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