過保護な獣魔2匹に守られて300年引きこもってた俺は最弱

黒薔薇王子

第1話 いざ外へ敗北!?

 洞窟の中で銀の鱗に覆われた尻尾を振りながら寝っ転がって本を読む、見た目16歳の青年がいた。尻尾を除けば見た目は普通の人間だが、彼の実年齢は516歳で引きこもり年数は300年ちょっとだ。彼の名はアルガ=ドーピッシュ、竜種と人間のハーフの青年は親と親戚が死んだ後、見知ってる人がいなくなったことと充分な資金があることをいいことに300年ひたすら読書や魔法の練習をして引きこもっていたのだ。彼に付き従っている魔獣、大きさや見た目に微妙な違いはあれどベースが普通の獣の姿をした魔力を有する生き物、も反論しなかったのも300年も引きこもった理由だろう。食料や生活用品は普通の犬に変化した魔獣の首にかごをぶら下げ、買い物メモ、金を入れてお使いに行ってもらっていた。そんな日常を順調に過ごしていたはずだった。しかし、遂に全ての本を読み終えてしまったのだ。なら、また魔獣に買いに行ってもらえればいいだけの話だと思うが、でてきてしまったのだ外への好奇心が。300年生きている知り合いはいないからその面で言えば気軽なのだが、正直、今更外へ出るのも恐いし今の文化や常識が分からない。勇気を出して、アルガは魔獣に外へ出たいという気持ちを伝えることにした。


(まぁ、あいつらが俺を否定なんてしないだろうけど)


…………………………………………………………………………………………………


「まぁ!まぁ!ご主人様が外へ出たいなんて、どうしたのですか!」


「我らに粗相がありましたか!?」


「いや、そうじゃないんだよ」


おすわりした状態で2mはある白い犬の魔獣と黒い犬の魔獣が困惑したように吠えた。


「ただ、俺が外の世界に興味があって…」


しばしの沈黙が流れる。


「まぁ!喜ばしいことですわ!」


「久しぶりに3人で散歩ですか?」


アルガは2匹が反論することはないだろうなとは思いつつもその反応を見て引きこもる自分にやはり何か思うとこがあったのだろうかと思った。


「やっぱり、外へ出るの嬉しい?」


「もちろんです!ただ別に今までのご主人様が嫌だったわけではないのです。けど、ご主人様の竜種としての姿は綺麗ですからそれが久しぶりに見れるかと思うと…」


そう言うと、白い犬は涙ぐんだ。


「わたくしだって、嫌だったことなんてありません。けど、わたくしもご主人様の竜種姿を見れることが嬉しいのです。それに、やはり獣魔のわたくしたちでは代わりになれないものもありますから…それを見つけてくれれば何よりの喜びです」


「タリア、それは…」


黒い犬、タリアの言葉に少し眉をしかめながらなんて言葉をかけようか迷うアルガにタリアは優しく言った。


「すみません、軽率でした」


「いや、俺を心配してのことだろ?見つけられるかはわからないけど…」


「ご主人様、今考えずともよいのです。タリア!せっかく芽生えた外への好奇心を潰す気か!」


白い犬がタリアに吠え立てる。


「むっ」


「シリア、いいんだよ」


白い犬、シリアの言葉に唸るだけで言い返せずにいるタリアを庇うアルガ。


「それよりも、2人は調達で外には定期的に行ってるよね?だから外のことを教えてほしいな」


 そこからはちょっとした勉強会が始まった。なんと外の世界は、あまり文化が進んでないことを知ったときは驚いた。アルガが引きこもって100年経ったころ、魔力を持つ人以外の生き物、魔物、魔人、妖精らと人間の溝が深まって勇者だの魔王討伐だので争っていたため、色んな文化が破壊され最近やっと復興がほとんど終わったらしい。現在は、まだ溝は少しあれどほとんどの人間と若い魔物たちの仲は良好。ただ人間と争っていた時代を知るアルガの種族のように長寿の種族の一部はまだ受け入れられない者と受け入れてる者とで別れている。更にその中でも穏健派と過激派で別れていて、過激派のせいで一部の人間が魔物不信になっている。


「まだ、勇者とか魔王はいるの?」


「はい、魔王は長寿の種族なのでまだ代は変わっていませんが、勇者は現在3代目か4代目だろうかと思われます。まぁ今では、勇者も魔王も互いの種族代表という意味の肩書になっていて平和的に交流してるらしいですね」


シリアの言葉にふと疑問を覚えるアルガ。


「王族とかじゃなくて勇者が代表をやってんのか?」


「本来なら王族や貴族が他国とこ交流を担いますが、魔王やその配下の魔物の力は強大ですからね。魔王側にその気がなくとも、力加減を間違えて万が一のことが起こらないように代々力を受け継ぐ勇者が代わりに担っているのです」


「大変だな」


「だから衣服や食料に関しては大丈夫かと、ただ魔道具や種族間、人間社会は結構変わってるかと。ただ、田舎出身と言えばごまかせます」


300年間同じ金がずっと使えてたのがなんとなく不思議だったが、変える暇もなかったということだろかと思いながらアルガは存外、外の世界へ出るハードルが低くて安堵と勉強という目的で心を整える時間はないということに焦りを覚えた。


「外に行って何をしようかな」


「外を見て回ってから決めてよろしいと思いますよ」


タリアがその鼻先を擦り付けながら微笑む。


「さて、ではこのシリアめがお洋服を見繕ってきます!」


そう言ってシリアが意気揚々と洞窟を出ようとすると


「おい! その役目我にも少し分けろ」


「はっ、趣味が悪いお前の意見を欲するとでも思いますか?」


「あぁ?!」


 シリアとタリアは基本、仲が悪い。仕事や戦闘に関しては完璧な連帯だがそれ以外ではよく口喧嘩をしている。両親は、タリアとシリアが対になってるようだと言って拾ってきた。しかも、シリアは雄でタリアは雌であわよくばとも考えていたが、2匹は最高に相性が良く同時に相性が最悪だった。仕事に関しての相性は良かったがお互いに異性として見ることが出来ず400年近く一緒にいるが恋愛的な雰囲気になっているとこを見たことは一度もない。主であるアルガに遠慮しているのではと思った彼は一度両親と相談して家族3人で旅行に行きたいという名目で2匹の仲を深める作戦を両親の協力の元、決行した。旅行の間、洞窟にいる2匹を魔法で監視したが、なんと交代で洞窟の見張り番をしながら外で魔法や他の魔物と戦って鍛錬していた。そこで2匹は競争相手であり、仕事仲間なのだと納得してそれ以降、そういう目的で2匹を近づけようとするのは諦めた。

 シリアとタリアが調達してくれた服、といっても恐らく店員に用途などを書いたメモを渡しそれに合う物を選んでもらったのだろう、を着て旅に必要な最低限の荷物を鞄に詰め込んで。アルガが自身で買いに行かなかった理由は服がパジャマしかなかったからだ。引きこもっていたとはいえ衛生にはそれなりに気を遣っていたアルガはボロボロになった普段着は捨て、パジャマだけを替えて過ごしていた。尻尾をしまい、完全に人間の姿となる。アルガはハーフのため、どちらの姿もとれる、竜種姿が見れると喜んでいたタリアたちには悪いなと思いつつ、過激派の魔物がいる以上、人間に警戒されるのは避けたい。面倒というのもあるが、はっきり言って人、というか他人に関わるのが苦手な自分にとって敵と勘違いされたら誤解を解くのにどれくらい時間がかかるか、そもそも誤解が解けるのか見当もつかない。案の定、タリアたちの尻尾と耳が少し下がっていた。


「さぁ、いざ外へ」


外に出て2時間後、アルガは冒険者たちにボコられていた。服は危険が付きまとう冒険者御用達の店の物の中でも高い物を買ったため、手ではらえばとれる程度の汚れしかついてない。


<ご主人様!どうかお呼び下さい!わたくし共が制裁してやりますわ!>


<タリアの言う通りです!さぁ、我らを!>


今は普通の犬となっているタリアたちが念話で吠える。


「うっ、だめだよ…」


「何さっきからぶつくさ言ってるんだよ!」


ドガッ


ゴロツキ同然の冒険者がアルガの腹を勢いよく蹴る。


「がっ!」


みぞおちにつま先がめり込み息が詰まる。なぜこんなことになっているか、それは10分前に遡る。


 外へ出て一時間ちょっと歩いていた。やっと街にたどり着きそうになってアルガはタリアたちにいつもの犬の姿になるようにお願いした。いつもその姿でおつかいを頼んでいたというのもあるが2m以上ある魔獣は連れていけないと判断したからだ。一見、犬2匹を連れた冒険者の青年となったアルガは深呼吸をして街に入った。屋台に人々でごった返した街はアルガにとって情報量が多かった。早速、人酔いを起こしたアルガが裏道に入って休憩していると、人相の悪いボロボロの装備の冒険者に絡まれた。なぜ冒険者だと分かったかというと冒険者登録した時に付ける腕輪を身に付けていたからだ。タリアたちの話で冒険者に関してもある程度の知識を得たアルガの判断は早かった。


<走るぞ>


念話、魔力を持つ者同士ができる魔力を使用して相手の意識に語りかける会話方法、を使ってタリアたちに合図すると冒険者たちに背中を向けて走り出した。冒険者の中で仕事のできない、稼げず落ちぶれた者は灰色冒険者と呼ばれ、装備や食い物欲しさに盗賊のようなことをする。勘だが絡んできた冒険者は灰色冒険者と判断したアルガは逃げたのだ。だが、ずっと引きこもっていたアルガに逃げ切れる体力はなくあっという間に捕まった。体力切れの状態で頭を回転させたが、昔から平和主義のアルガには知識や使用できる魔法の手数が多くあっても戦闘経験不足から、街中で人間の暴漢相手に放つことができる魔法は思いつかなかった。結果、アルガは大人しく暴力を受ける事にして、逃げるタイミングを図ることにした。アルガは鍛えてこそいないが、種族的に丈夫な身体をしていたので人間の攻撃は痛みこそ感じるものの致命傷は受けない。せっかく買ってくれた高い服があだになってしまったがそんなことは言えない。タリアたちは普通の犬の姿になっているので複数の冒険者相手に大した攻撃はできない。自分で変化は解けるが、本能がアルガの命に背くことを拒否している。大人しく顔と頭を守って殴られているとふと、この状況から逃げ出す方法を思いついたアルガは今度はためらわなかった。


「ら、ライトッ!」


灯りに使われる魔法を使い冒険者の視力をギリギリ奪わない程度の明かりを放つ。


「うわっ」


「ぐっ」


光にひるんだ冒険者たちを跳ね除けて再び走る。体力はなくとも運動神経自体は普通の人間よりいい身体で一気に誰かの家の屋根の上までなりふり構わず壁を蹴って跳ね上がる。今度こそもう体力切れのアルガは仰向けになって、タリアたちを手で呼ぶ。


<ご主人様、遠慮なさらず攻撃すればいいのに>


<いくら身体が丈夫だからとはいえ、ご主人様が暴行を受けているところを見るのは…>


「すまない…」


そのまま両腕でタリアとシリアを撫でながらしばらくぼーっとするアルガ。


「俺は…弱いんだな…」







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