ぐちゃぐちゃな衝動に身を任せて

右中桂示

スイッチは一件の報告

 町中を全力疾走。

 通行人をすり抜けてかけ分けて、痛い視線を浴びながらも自宅へ走る。日頃の運動不足がたたって辛いし遅いけど、それでも全力で駆け抜ける。


 家に着いて玄関を開けたら靴は雑に脱ぎ捨て、荷物は放り投げ、ソファーへダイブ。

 そしてクッションに顔を押し付け、叫ぶ。


「────────!」


 近所迷惑にならないように、なんて理性が残っているのに自分で驚く。ここまで長く息が続くのもビックリだ。

 たっぷり声を出し切ると、クッションから顔を上げる。


「はあ……はあ……」


 息も絶え絶え。喉も痛い。

 でもまだ足りない。抑えきれない衝動が自分の中で燻っている。


 だからソファーの上でジタバタした。

 手足をとにかく適当に。どう見ても駄々をこねる子供だ。大人気ないにも程がある。

 で、その内に、落ちた。


「痛!」


 テーブルに頭をぶつけた。転がって丸まって痛みを堪える。

 そこでふと、新聞が落ちているのを見つけた。

 その新聞をぐしゃぐしゃに丸めて、壁に投げつけた。

 ティッシュ箱も投げた。クッションも。上着も脱いで投げたし、靴下も投げた。

 投げる物を探すのが面倒になったところで、もう一回ソファーにダイブ。

 再び子供みたいにバタバタ暴れた。


「……腹減ったな」


 しばらくしたら思い立って、冷蔵庫を見に行く。

 冷凍チャーハンがあった。

 レンジに投入。

 でも七分とか長い。じっと待ってられない。


 また冷蔵庫へ。

 刻みネギがあった。これを足そう

 ベーコンもあるな。よしこれも。

 竹輪。これもだ。

 カニカマ。いいな。

 海苔の佃煮。いれちまえ。

 あと調味料もか。

 マヨネーズにケチャップ。定番。

 醤油。いっとこう。

 ポン酢。うん。

 焼肉のたれ。ゴー!


 それら諸々をテーブルに広げて、レンジの前に戻る。

 でもまだ四分近くもあった。

 待ちきれないので途中でいいからと引っ張り出す。

 半解凍チャーハンにあれこれをぶちまけ、ドバドバと味付けを追加。

 さて、いただきます。


「冷た! 味濃い! 不味い!」


 テンションがおかしいせいか、無性に笑えてきた。楽しい。

 不味いはずの味も不思議と気にならない。

 ガツガツとかきこみ、残さず食べ切る。


 そこで、大の字に倒れた。

 眠い。

 散々子供みたいに暴れて、食べて、そりゃ当たり前か。


 冷静になってきて、これまでを思い返して、自嘲する。

 自分は幼稚で、大それた事は出来ない小心者だった。ちっぽけな想像に囚われた凡人だ。

 そうと思い知って、納得。

 そりゃあこんな人間じゃ駄目に決まってる。

 諦めがついた。


 後悔とか落胆とか嫉妬とか、色々ぐちゃぐちゃだった感情は、無理矢理に発散して、落ち着いた。


 これでようやく、ようやく素直に祝福出来る。

 暴れている間に何処かへ落としたスマホを探しだして、あるにメッセージを送った。




『結婚おめでとう。末永くお幸せに』

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ぐちゃぐちゃな衝動に身を任せて 右中桂示 @miginaka

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