混沌スーパーエクスプレス(月光カレンと聖マリオ14)

せとかぜ染鞠

第1話

 記憶障害のせいで7歳児に戻った三條さんじょう公瞠こうどう巡査は怪盗月光カレンの宿敵で,聖マリオの信者でもある。今の三條にとって叔母に見えている俺さまが月光カレンで,聖マリオでもある。俺の日記を売った学生を訪ねる途中に,俺たちは着ぐるみのピンク兎と遭遇する。そのピンク兎の配ったぬいぐるみに時限爆弾が仕かけられていた。

 避難が喚起されると地下街はぐちゃぐちゃの混乱状態に陥った。悲鳴や怒号が飛びかい,我先に逃げだそうとする人々でごったがえし息もできないほどだ。

 三條が爆弾を抱いたまま線路に飛びおり,人の流れと逆行する方向へ駆けだした。

「間にあうものか!」ピンク兎がおどろおどろしげに告げる。「すぅ~ぐに爆発するぞ。それに一つ廃棄しても意味はない。ほ~ら見るがいい」着ぐるみの前をはだければ毛皮の裏側に複数の爆弾がぶらさがる。

 三條の背後に列車が迫った。各駅停車しない瀬戸鳳せとほうスーパーエクスプレスだ!

 俺は瞬時に仕とめたピンク兎を左腋に挟み,線路に着地するなり三條を右腋にかかえ,駅を疾走する列車に舞いおりた。

「そいつまでダッコするなんて」7歳児が兎の急所を蹴りあげる。

 列車が街を過ぎ,山を越え,海を渡る橋梁にさしかかったとき,三條に爆弾を投棄させ,兎の携帯する爆弾も処分した。数秒後に海面が破裂し,震動と爆風が追ってくる。

「おみそれしたよ,シスターマリオ」兎が耳もとで囁いた。

 何故俺が聖マリオだと知っている。聖マリオの顔は誰も知らないはずなのに……

 答えに辿りつくまえに左腕のなかで小爆発が起こった。着ぐるみを脱がせれば,血塗れの若い男が虫の息だ。さけた腹部からは内臓が飛びでている。

 男は手製の小型爆弾をのんだと説明し,両眼を閉じた。

 三條がぐちゃぐちゃによじれたはらわたを戻しながら男を鼓舞している。

 2人の傍らで途方に暮れていた。聖マリオの正体を知る爆弾散布魔――俺の脳内はカオスと化した。

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