あんたは、どうやって食べる?

七倉イルカ

第1話 あんたは、どうやって食べる?


 あんたは、どうやって食べる?

 

 あれだよ、あれ。

 えーーっと、そうそう、カレーだ。

 

 なあ、あんたは、どうやってカレーを食べるんだい?


 つまりさ、一口分ずつ、ライスとカレーのルーを混ぜて、ちまちま食べていくのか、それとも、ライスもルーも、全部ぐちゃぐちゃに混ぜてから食べるのかってことだよ。


 おれは、最初に全部混ぜてから、ガツガツと食べるのが好きなんだ。

 その方が、ライスもルーも、均等に混ざって、最後まで美味しく食べられると思わないかい?


 一口分ずつ混ぜて食べてたらさ、最後にライスが余って、白飯だけを食べる羽目になったり、逆にルーだけが余って、困ったりするだろ。しない?


 なんで、こんな話をするかって?

 以前、つき合っていた、サユリって女の子が、ある日、おれのアパートに来て、カレーを作ってくれたことがあったんだよ。

 ああ、この子じゃないよ。

 この子は、菜々美だ。


 サユリはさ、美味しそうなカレーを作ってくれたよ。

 おれは当然、カレーを全部混ぜてから食べようとしたんだ。

 しっかり混ぜて、いざ食べようとしたら、サユリが、「マナー違反」だ、「ぐちゃぐちゃにして汚い」だと、好き勝手に文句を言ってきやがってさ。

 なあ、頭に来るだろ。

 おれ、ここに来て、まだ浅いから、マナーとか言われても、よく分かんないんだよ。


 で、ケンカだよ。

 サユリは気が強くてさ、おれの部屋だってのに、手当たり次第に物を投げるわ、壊すわで、もう、部屋の中も何もかも、ぐちゃぐちゃだよ。


 それからしばらくして、新しく付き合った彼女が、この菜々美だよ。

 もちろん、サユリは終わったよ。

 ここは、菜々美が借りているアパート。

 ああ、それは知っているのか。


 今日はさ、菜々美と二人で、焼肉を食べに行ってたんだよ。

 最悪だよ。

 そこで、また、もめちゃったもの。


 ほら、焼肉屋に、ビビンバってあるだろ。

 ご飯の上に、ごま油の風味が効いたモヤシやゼンマイ、あとキムチや肉、卵黄などをのせて、コチュジャンとかいう甘辛い調味料を加えて食う、あれ。

 あのビビンバをシメに頼んだんだ。


 おれは、同じ間違いはしないぞ。

 マナーだろ。マナー。

 だから、運ばれてきたビビンバをぐちゃぐちゃに混ぜずに、ちょっとずつ、ちょっとずつ混ぜながら食べたんだ。


 そしたら、菜々美が文句を言うわけだ。

 「変な食べ方」「みっともない」「ビビンバをそんな食べ方する人は初めて見たわ」とか言い出してさ。

 バカにしたような目で見やがって。


 その場では、がまんしたさ。

 店の中で、キレて暴れたら、警察が来るだろ。

 それはマズイだろ。


 で、焼肉屋を出て、この菜々美の部屋に、戻ってきたんだよ。

 後は、サユリの時と同じだよ。

 ケンカになっちまってさ、おれも頭に来てたから、ぐちゃぐちゃに混ぜてやったよ。

 「これで、いいんだろ! この方が食べやすいもんな!」って怒鳴りながらさ。


 あんたも、運が無いよな。

 「うるさい! 暴れるなッ! 騒ぐな!」とか言って、怒鳴りに来るんだもん。

 いきなり玄関のドアを開けてさ。

 下の部屋に住んでいるのかい?

 焼肉屋から帰ったとき、菜々美が玄関のカギを掛け忘れたってのも、あんたにとっちゃ最悪だったよな。


 なに?

 ははははは。こんなところ見られたら、逃がすわけにはいかないよ。

 誰にも言わないって?

 無理無理。絶対に言うよ。


 ははは。助けを呼べないだろ。

 かすれた声しか出せないもんな。

 おれたちの毒は、人間を麻痺させる効果があるんだよ。


 よく見てみるかい、この牙?

 毒液を飛ばすことも出来るんだぜ。

 凄いだろ。

 地球人には、こんな牙、生えていないもんな。


 まだ、おれたちが潜入していることが、バレる訳にはいかないんだよ。

 

 ほらほら、故郷の星からもってきた、ザルバルルーザをたっぷりかけてやるよ。

 これは、カレーで言うところのルーだよ。

 香辛料の刺激的な匂いが、食欲をそそるだろ。


 せっかくだから、あんたに選ばせてあげるよ

 一口分ずつ、ザルバルルーザに混ぜて食べられるか、それとも、ぐちゃぐちゃに混ぜられてから食べられるか……。

 

 あんたは、どうやって食べられたい?


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