【掌編】多様性の国【1,000字以内】
石矢天
多様性の国
僕は旅をしている。
世界にある様々な国を、自分の目で見て回るためだ。
その国はとても不揃いな街並みをしていた。
教会の隣に神社があり、そのとなりにはモスクが並んでいる。
石灰石を積み重ねた円錐型の家、風通しの良さそうな木造りの家、赤い木造りの家、有名な建築家が設計したという前衛的な家。
僕には、世界が丸ごと乱暴にぶち込まれたような、ぐちゃぐちゃな景色に見えた。
「この街はどうしてこんなに……自由なのですか?」と訊ねると、女はニコニコ笑顔で教えてくれた。
「この国は多くの移民を受け入れました。素晴らしいことです。移民の皆さんがそれぞれの国の文化を無くさないよう、家も、礼拝所も、レストランも自由に建てて良いという決まりになっているのです。多様性の社会ですからね」
ぐちゃぐちゃだと言ったら気を悪くするだろうと考え、オブラートに包んだ表現を考えてみたのだが……効果はバツグンだったようだ。今回は怒られずにすんだ。
「なるほど。しかし、それぞれの文化圏ごとに居住区を住み分けなかったのはなぜですか? 全く違う文化圏の人たちを集めては、トラブルも多いのでは?」
僕の質問に女は小さくため息をつく。
口には出さないが『やれやれ、そこからか』という憐みが表情からこぼれていた。
怒られはしなかったけど、ちょっと心がシクシクした。
「移民を受け入れ、多様性の社会を作っていこうというのに、わざわざ壁を作ってどうするのですか? もちろん、文化が異なれば衝突もあるでしょう。しかし、それらの障害を乗り越えることで、人々は多様性を認められるようになるのです」
女の話に僕は頷き、「そういうことでしたか」と相槌を打つ。
「ところで、あちらは立ち入り禁止区域となっていますが、どうしてですか?」
「ああ。あそこは先住民保護区ですね。多様性を認められなかった残念な現地人と一緒に、この国古来の文化を保護しているのです。やはり、この国は素晴らしい」
「そうでしたか。ちなみにあなたは現地の?」
「いえ。私は移民三世です。三世ともなれば、もうすっかりこの国の人間ですけどね」
女はそう言っておかしそうに笑っていた。
もし僕がこの国に移民してきたとしても、きっと快く受け入れて貰えるのだろう。
「ありがとうございます。とても勉強になりました」
僕は頭を下げて別れを告げた。
まるで小さな世界旅行をしている気分で、次の国を目指して歩いていく。
【了】
【掌編】多様性の国【1,000字以内】 石矢天 @Ten_Ishiya
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