理解者
著名人へのインタビュー企画が行われた。
ゲストは哲学の世界で知らぬ者がいない有名人。
テーマは『最大の幸福とは何か』であった。
「さっそくですが、質問させて頂きます。最高の幸せとは何でしょうか?」
女性キャスターの問いに、哲学者は静かに答えた。
「誰かに理解されることです。どれだけの金銭や名誉、アクセサリーなどを保有していても『理解されること』には決して及びませんね」
彼は使い古した衣服を着用し、ブランドものを身に付けていなかった。高級料亭には決して行かないと公言していたことも大きな説得力を持った。
「で……では、あなたを一番理解してくれているのは誰ですか?」
女性キャスターが動揺しつつ質問した。哲学者は優しく語った。
「自分自身です。自分のことは自分が良く知っているのですから。自分を理解してあげないと自分を苦しめてしまうので、『こんな自分でいいんだ』と言い聞かせています」
_______________
取材が終わり、キャスターが立ち去ろうとした。
すると、哲学者が一言。
「お母さんになるそうですね。過去のあなたの行いに対して、世間の風当たりは強いかもしれません。ですが、どうか『自分』を大切にしてください。今日はありがとうございました」
静かに立ち去る彼の後ろで、すすり泣く音がした。
理解してもらえたことが嬉しかったのかもしれない。
不足 荒川馳夫 @arakawa_haseo111
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