ナンジャモンジャナンジャ【KAC2023:ぐちゃぐちゃ】

汐凪 霖 (しおなぎ ながめ)

なんじゃこれもんじゃだわ

「ねぇこれ……本当に食べものなの……?」

 鉄板を前にしておそおののく。

 じゅうじゅうと焼ける音だけ聴けば口に運ぶ期待感を高めるし、新鮮な素材や調味料から立ち上る香ばしい香りは食欲をそそる。

 工具にも見えるフライ返しのような道具で刻まれたエビやイカを炒めていく“大将タイショー”と呼ばれる料理人の動作は小気味良く、その技術は熟練のもので疑いようがない。

 だが、しかし。

 なんとも見た目が宜しくない。

「だって なんか見た感じ としゃぶ──」

「おだまり」

 ぴしゃりと冷ややかに遮られ、肩を竦める。

「だってマルゴぉ」

 低い忍び笑いが隣から聴こえて視線を向ける。出会った頃は感情が見えないほど人工的だと思った彫像のような顔に、楽しげな笑みが広がっている。

「きみも何か言ってよ、フェゼ」

 同じ楽団に入ってから愛称で呼び合うようになった彼は、暫く笑っていた。

「ユイカとシューイチの紹介してくれた店ですからね。美味しい筈ですよ」

 これまでの経験上、二人とも舌は確かだ。

 だが。

 汁気が減ってきて、益々、見た目はソレっぽい。

「えぇぇ美味しいのコレ?」

 店員に英語が通じないので品書きの写真を見て注文したのだが。それはボウルに山盛りのキャベツや海鮮で。こんなことになるとは思いもよらない。

「リゾットだと思えば?」

「ああ、似てなくもないね」

「いや似てないでしょ粒が均一で、ぐつぐつ いってないし」

 さあ、どうぞと小さな匙というかヘラを渡されたが、困惑する。近くの席の客たちを見ていると、なんと鉄板から直接、息で冷ましながら食べていた。流石にそれはと小皿を頼む。大きなヘラで取り分けて、各々が口に運んだ。

「あれ、美味しい」

 カリとろジュワ~ッと旨味が溢れる。

 ふちは香ばしくカリッとしているが、とろみのある部分は柔らかくて、キャベツのシャキシャキにプリプリの海鮮。凄い。美味しいの種類が多い!

「追加しない、リッポ?」

 頷くしかない。

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ナンジャモンジャナンジャ【KAC2023:ぐちゃぐちゃ】 汐凪 霖 (しおなぎ ながめ) @Akiko-Albinoni

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